ohshima

メッセージのohshimaのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
1.0
 雰囲気だけは立派でしたが雰囲気しか考えてない結果悪手が目につき結果としては全然ダメでした。小説が映画化される際、両者の違いの鬼の首でも取ったみたいにあげつらうのは醜悪でしかないと思うんですが、ここまで主題SF的しかけがないがしろにされてると腹が立ちます。
 まずファーストコンタクトもの的な緊張感の演出に時間を割きすぎてるせいでヘプタポッド言語の翻訳や科学的情報の交換といったコミュニケーションを通して彼らの世界把握に少しずつ近づいていく過程が全く描かれていないです。申し訳程度の台詞や作業風景はありますが「一応こういう仕事してます」という言い訳としてしか機能しておらず、なんとなく緊迫した感じを漂わせたいだけの会話の背景に堕してしまっている。どんなアプローチでコミュニケーションを図っているのか、各場面で翻訳がどの程度進行しているのかが全くわからない。
 また序盤からフラッシュバックのように主人公が未来を垣間見る描写が挿入されますが、これもちゃんちゃらおかしい。彼女が未来を知るのは言語を習得する過程でヘプタポッド的世界把握(原作では人類のそれを逐次的認識と呼び対応して彼らのものを同時的認識と表現しています)を獲得したからであって、まだ彼らの文字を解読できない段階でその上無意識のうちに未来を知ることなどあり得ません。
 映画、小説双方の作品の主題をものすごく乱暴に言うと「結果よりも過程」っていう話なんですが、小説はその過程そのものを極めて緻密にしかも分裂した二つの語りを交互に進行させ最後に統合するという手法で書かれているからこそ名作足り得ている訳で、こうした主題が構造そのものと深く結びついた作品から結果だけを取り出して空いた穴をなんとなく緊迫した雰囲気で埋めただけでは矛盾が生じるのは当然だしなによりそれは当初の主題への冒涜に他ならないです。如何に映像表現として優れていようとそんなものはクソです。文字通り価値のない残滓という意味で。
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