ワカミヤオリエ

リメンバー・ミーのワカミヤオリエのレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
1.7
『家族は愛し合い許し合うもの』、『時間が掛かっても家族ならいつか理解できる』という前提で進む話なので、そういった家庭を体験してこなかった人にとってはトラウマ刺激されまくって映画どころじゃないだろうな……というのが一番の感想

主人公が「(自分の夢より)家族のほうが大事だ」って答えを出してしまっているのも超キツくて、いわゆる"毒親"問題であったりとか、家族を選択できなかった人間や、そもそもの愛を受け入れられなかった人間、劇中で描かれている家族愛のある環境に沿わなかった人生を歩んできた人は、ミゲルのこの台詞ひとつでその過去を責められてるに等しいんですよ
そして「呪い」って言葉を使ってるじゃないですか。音楽禁止も単にエゴで、その子供だからといって責任も守る義務も無いのでまさしく呪いだけど
それ以外にも、"血を分けた家族と相思相愛の関係を築けない"ことは、後述するんですけど映画内では超罪深いことだと言われてるんですよね すごい ぜんぶわかってて「呪い」って表現してるなら強すぎるし酷すぎる 勝てねえ……


一番ショッキングだったのはおじいちゃん亡者が消滅してしまうシーン
あれって人から忘れ去られること&彼岸から此岸に戻れない危険性アピール&劇中最初の泣き所だったのかもしれないけど、
あの表現によって『他者を思わず他者から思われない人間は最終的に消えるしかないし、救いは無い』んだと「愛を持たない人間」への断絶がハッキリ描かれていたので、この映画は見る人を選びます 真面目に バックグラウンドに家族愛の文脈がない人間がうっかり見ちゃうと心が死ぬ

他に辛かったシーンはかなり序盤だけど、ミゲルが一生懸命説得しようとしてもおばあちゃんはそれを遮って頑として耳を貸してくれなかった時、あれだけの短いシーンなのにめちゃくちゃ「うわあああああぁ😭」ってなった……身内からじゃなくてもこの行為をされた覚えがある人たくさんいるでしょ…
自分が一生懸命伝えようとしているのに無かったことにされる、『話を聞いて貰えない』記憶って残るし傷付くんですよ。そしてこの後ミゲルはミゲルで同じように他の家族の話を聞かなくなるの、呪いの腑分けだよね……(保護者側の自業自得としか……)

お話が進む毎にこういうちっちゃなささくれがちくちく積み重なっていって、終盤の勝利確定シーケンスに入るまでとても映画を楽しむ精神状態じゃなくて、それ以降は普通に泣いたし良かったハッピーエンドだねって感じだったけど
しんどかったなあ〜〜〜しんどかった……


家族・血の繋がった相手だろうと別の人間である以上「他人」だし理解が及ばないことは当たり前で、だからこそ無理して理解させよう・従わせようとするんじゃなくてただ「そういうもの」だと認める寛容とリスペクト心があれば家族だろうが決別してもいいじゃんと思うのだけど
この映画からは家族同士の関係とは相互理解で相思相愛、そうでなければ家族内からコミュニティから世界から排斥されても仕方ない、と言われている気持ちになったんですよね
『「愛はこんなに素晴らしい」のに、お前にはそれが無いだなんてどういうこと?』って持たざる人間への断絶が、、
輪から外されても仕方ない……呪われても仕方ない……だって愛を持たないお前が悪い そして愛を持たない罰あるいは代償は孤独に消えていくことだ しんど〜〜〜い(※そういう映画じゃない)

現に愛を持たないとされていたヘクトーの扱いは酷いもので(あれ普通にいじめでしょ)
それが愛されていたことが判明した途端手のひら返したみたく「失ったものを取り戻した」ていで人の輪の中に返されていくのは違和感があったんですよね
これまで周囲はあれだけ異端だと排斥ばかりしていた癖に
ヘクトーはちゃんと「持っていた」人間だったのに、互いに愛し合っている証明がなされないと存在ごと断絶させるあの世界のシステムに薄ら寒い気持ちになりました 景観はあんなに綺麗なのにね





「呪い」の反対に「許し」という言葉を使っていたのはいいなあと思った
「理解」ではなく許すことが最上の愛だと個人的には考えていて、
完全な「理解」や時に一方通行でしかない「愛情」以上に、「許し」こそが最も得難いという場合は往々にしてあるので……それが血の繋がっている相手からなら尚更……
ご先祖様夫婦もやり直すのに始めたのは理解ではなく認めて許すことからだったし、愛と許容は密接だと思う


家族だからこそ理解できないことも許せないこともあるし、譲っちゃいけないこともあるのは当たり前じゃないですか
というか本来なら個人の矜持を曲げちゃいけないんですよ 夢か家族か片方しか選べないなら家族を蹴ったって悪ではないんですよ
その結果どうなっても自分の責任なんだから自分自身で折り合いをつけていけばいい

でもミゲルは両方望んだんですよ……だって「子供」だったから
子供だから責任が取れないし、責任を取る発想が無い、そして子供だからこその全能感と欲望と強さを持ってた
それは最終的には全てを救う結果に繋がったけど、ミゲルがもう少し大人だったとしたら夢を捨てて凡庸に腐っていくか、家族を捨てて悪だと切り捨てられるか、どちらかを選んでどっちにしろ「呪い」を背負った大人に成長していっただろうなと

要するにミゲルは「未来ある子供」だったので呪われることなくトゥルーエンドに至れたんですよね
ヘクトーと同じ轍を踏まなかった理由はこの一点に尽きる
子供だから許されたし、周囲の大人から未来を生きることを望んでもらえたんだな

夢みる子供であるという事実が、音楽を愛する気持ちや才能と同じくらいにミゲルの持つ武器だったんだろう



家族愛最高!いい映画だった!って何の衒いもなく思えた人は幸せな家庭での幸せな記憶があるんだなと思います 皮肉ではなく本当に


『家庭』という場所に安らぎと幸福がある人にはこの映画は文句なしの感動作だし、
『家族』という存在から致し方なく、或いは望んで縁を切ることでやっと安らぎを掴めた人には、、うん、、、

わたし自身は家族に恵まれたカテゴリの人間で、家族のことを愛してるし愛されてる自覚もあるけど、それでも家族からの愛情ゆえに自分の夢や人格を理解・許容してもらえなかった経験があるので、そんなわたしですらこれだけダメージを受けたのにもっと相互理解のない家庭環境にいる人がこの映画を見たら一体どうなってしまうのかと……想像したらゾッとする まあそもそもそういう人は家族映画は見ないかもしれないけど……

この映画は「家族」というものに対する価値観を映す鏡なんですねきっと



『KUBO』と主人公の背景や作品テーマは似てるんだけど全く別物だったなあ 寧ろ真逆
音楽によって愛を再確認し、家族を殺した仇を討って、この先も家族みんなで人生を歩んでいくミゲルと、
天涯孤独になるが仲間を得て音楽と共に旅を続けるももう一度天涯孤独になってしまって、それでも家族を殺した仇を許すクボは、どちらの方が強いとか正しいとかは無いけど
ミゲルは子供ゆえの力で自分が持っていたものを何ひとつ取りこぼさなかったし、クボは子供の身で全てを失っても独りで立てる人間になった
この2作って合わせ鏡みたいじゃないですか?近しいものを感じる

自分はKUBOはすんなり物語として楽しめたけど、リメンバーミーは愛を持たず断絶させられてしまった人のことを考えちゃってずっと余裕がなかった、、
でももう一度改めて見たいかって言われるとまた同じことで傷付くと思うので当分おかわりはいいです


家族映画を見に来てこんなに傷付けられると思わなかったけど、この映画が悪いわけじゃなくて、でもこの映画が語る家族愛を全ての人間に当て嵌めることは絶対にしちゃいけないと思う それこそ愛情を笠に着た暴力なので

この映画で再確認したのは「断じて愛はレディメイドではない」ということです



好きだったところ、世界観描写はやっぱり綺麗で、あの極彩色の世界を映画館で味わえただけで料金分の価値はもらったと思えた
・字幕版を見たんだけど、内容の聞き取りができなくても声優さん方の演技がとっても良いのがわかった、、ミゲル歌うまっ……歌が上手いな………(当然)
・邦題を原題からこれに変えてるのも良かったよね!?珍しいパターン……ラストに聴くリメンバーミーめちゃくちゃ泣けるじゃん………。
・あとペピータが超かわいい最高 死者の国でのエピソードもっと掘り下げてほしいしペピータのスピンオフが見たいです