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下衆の愛のH4Y4T0のレビュー・感想・評価

下衆の愛(2015年製作の映画)
3.5
インディペンデント(自主制作)映画の裏側を舞台に、腹黒く生きる“下衆共”のやりとりを描いたコメディドラマ。
嘘か誠か、あくまで客観的なイメージからなのか、さも実際に起こり得るエピソードであるかのようにブラックユーモアを効かせた作風が面白い。

“脱力感冴え渡る演技”に定評のある渋川清彦は、本作の主人公にピッタリだ。
相変わらず気怠そうな役柄がとてもよく似合う。
実力や才能に恵まれず、かといって努力しようという姿勢は一切見せず。大物映画監督になるという根拠の無い夢ばかりを追い続け、過去の栄光に縋っては役者達をこき下ろし、職権乱用で女をはべらす真性の“下衆男”。

しかし、こうした浅ましい考えの持ち主に限ってやけにプライドが高かったり、心の奥底にある揺るぎない精神を感じずにはいられなかったりもする。
海外ではよくありがちな『映画制作をテーマにした映画』だが、日本ならではの的を得た心理描写は非常に高いポテンシャルを秘めている、とも解釈できる。

また彼を取り巻く親族・同業者・交友関係までもが“下衆”で溢れかえっており、果ては人間不信に陥ってしまいそうな展開が様々なパターンで容赦なく降りかかる。
全ての過ちを認め、たとえ改心したとしても時すでに遅し。
これこそが本作の真意であり、必ずしも「勇気を持って踏み出す1歩」が正解とは限らない。
がむしゃらに足掻いて向かった先に、果たして『愛』はあるのか。さり気なく世の中の仕組みを示唆させる感慨深い作品。
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