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アノマリサのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

アノマリサ(2015年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

随分久しぶりのチャーリー・カウフマン新作が何と人形アニメという事でずっと楽しみにしておりました。残念ながら劇場公開はなかったですがそこはネット時代の恩恵というか非常にありがたい限り。人形アニメになってもやっぱりチャーリー・カウフマン作品としか言いようのない根暗だけど暖かい、素晴らしい作品でした。

まず驚くのは登場人物達の"声"。主人公とヒロイン以外全員の声が全く同じ人物の声が当てられてて、間違いなく最初は戸惑うと思います。ストーリーとしてもアニメーションなのに根暗なおっさんの日常を割と赤裸々に映してて、この時点で変な映画だなぁと思う人も多いんじゃないでしょうか。ただ人形アニメとしてのクオリティは本当に素晴らしくて、人形の表情や動き1つが余計にデフォルメされたキャラクターじゃない分すごく人間的な動きに実感を感じられます。

話は恵まれてるけどつまらない日常を送るおっさんの出張先での一夜を淡々と描いていきます。前述の通り変な映画なので中盤まで戸惑いしかなかったんですが、リサというヒロインが登場すると本筋が見えてくる。最も重要なディテールは勿論彼女の"声"で、主人公には彼女の声だけが他の人間と違ってただ1人女性の声で聞こえると。人生の折り返しも過ぎて仕事や家庭も既に選択し終わったおっさんの不能感は確かに恵まれてる悩みなんだけど、誰もがある程度は共感してしまう部分もある。だから劇中初めて女性の声で話すリサの登場は観客も地味で冴えないリサにときめき、恋してしまう主人公の気持ちが理解出来る。「アノマリサ」というタイトルが示すのも要は主人公にとってリサが理想や希望を象徴しているという事ですよね。そんな彼女と未来を描き本気で2人で生きていく事も考えるんですが、一夜を共にした朝彼女を理解していくにつれて彼女の声も次第に他の人物と同じ声に変わっていきます。つまりはときめきや希望は主人公が一方的に彼女に押し付けた幻想で、彼女を知り共に生きていくという事は彼女もまたつまらない日常の一部に変わるという事であって。知らないからこそ人はその人に自分に都合の良い理想を夢見るんですよね。恋愛なんてそんなもんってゆうのは悲しいかな事実でもあるのかなと。だけどラストシーンで主人公が異国である日本の人形を見て少しだけ気持ちが安らぐように、人は幻想を見ないと生きれないというのも真実だし悲しいけどそんな人間の性も否定はしていないように感じました。

声を当てるというアニメーションの特性を非常に巧く活かした作品で、その他にも顔が崩れたりする所とかも作り手が楽しんでアニメを作っている感覚が伝わってきてとっても良かったです。いつも通りウジウジした男の話なんですが今回はちょっとだけ優しい余韻もあって「脳内ニューヨーク」で集大成を経たチャーリー・カウフマンの新たな挑戦も感じられたのも嬉しかったですね。映画館で観れないのはもったいないくらいハイクオリティで個人的にも大満足の作品でした。
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