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牡蠣工場のperoのレビュー・感想・評価

牡蠣工場(2015年製作の映画)
4.5
漫画家の大島弓子さんは自分の飼い猫サバとの日常を理解なき和解の日々と言っていたが、この映画に出てくるシロ(本当の名前はミルクとの噂)はよそのうちの飼い猫。妙に人懐っこく想田監督の家の中にも隙を見てシュッと入ってしまう。想田監督の奥さんは愛情だだ漏れ的に気丈にシロを追い出すが…ついつい残り物だからエサじゃ無いと無茶な理論で残り物の魚をあげてしまう。けれどシロは漁港の猫なのでもっといいものを食べているらしく一口クチを付けてやめてしまう。そしてまた家に進入するシロ。だんだん進入する時間が長くなっている気が…シロの目的はエサじゃ無いとすれば何なのか?
岡山県牛窓の牡蠣工場、過疎化が進み20軒あった工場も今では6軒、牡蠣の殻を剥くむき子の仕事をしてくれる人も減り工場では言葉の通じない中国人を受け入れているが一人は5日で逃げるように帰ってしまう…そんな中初めて中国人を受け入れる工場では緊張感が漂っている。挨拶程度しかコミュニケーションの出来ない彼らは上手くやっていけるのだろうか?
チャイナ、チャイナと中国人労働者を呼ぶ牡蠣工場のおっちゃん、中国人は常識がないと断言するプレハブ業者のおっちゃん、みんな差別意識というのもないまま茶飲話のように話している。よくあるあるある話だが、それは日本人の中にある中国人に対して上位に立ちたいという意識を浮き彫りにして居心地が悪い。けれどもおっちゃんたちは彼らを雇わざるを得ない。グローバリゼーションの矢面に立たされ、言葉も通じているのかいないのかわからぬままなんとなく作業を教えていく、そしてそれをなんとなくこなしている感じの中国人労働者たち。私はコレを理解なき妥協の日々と呼びたい。美しい瀬戸の風景の中に、そのもどかしさをゆるゆると観察させてくれる。
おっちゃんたちの焦りを超えて、料理を作りながら「世界に出たらそれだけ知識も広がるでしょ、すごいじゃん」と熊本弁で語る牡蠣工場の二代目の若奥さんの姿が爽やかで鮮やかだった。
約2時間半もあるのに満腹なのに眠くならなかったエキサイティングな映画でした。あの牛窓の風景をもっと見ていたかった。
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