ご機嫌

リップヴァンウィンクルの花嫁のご機嫌のレビュー・感想・評価

5.0
個人的に一番惹きつけられた映画。

Coccoが演じる真白はいつもテンションが高く、まるで子どもの様な無邪気な顔で口を大きく開け笑う人物である。真白は七海に「女優の仕事をしている」と言っていたが、実はAV女優であることを真白が体調を崩しその時に訪問した際マネージャーが来て何の女優かということを知る。そしてある日、安室に紹介された住み 込みメイド100万円のアルバイトの本当のクライアントが「同じバイトの仲間 です」と紹介された仲の良くなった真白であることを知った。なぜ真白がその 様な依頼をしたのか尋ねると「クライアントの望みは、友達が欲しい(レンタルフレンド)です。」と伝えられ、七海はそれを素直に受け入れた。しかし、 それは嘘である。真白の安室への依頼は最後に「一緒に死んでくれる人が欲し い」だった。終盤、真白は七海とベッドで寝ている間に自殺をするが、その前 日に七海は真白の頼みでウェディングドレスの試着レンタルをしながらスポーツカーを乗り回し、お城の様な家賃の高い住み込みの家で七海と真白の2人き りでパーティをした。一見異常に見える行動であるが真白と居ればそのくら いのイベントはあってもおかしくないくらい他人を引っ張り回したりする子で あったから飛び抜けておかしい日という訳ではなかった。だが今思えばこれ らの真白の行動や激しさは自分の弱さを隠すための彼女なりの躁的防衛であったとも考えられる。「破天荒な結婚式」の様なそれは、真白にとって「儀式」の様なものだったのだ。眠る前(自殺をする数時間前)に真白は七海に自分の考えている事や不安に思う事を語り続け、カタルシス効果から最後に真白らしからぬ弱々しいイントネーションで、「一緒に死んでくれる?」と尋ね「はい。」と 七海は微笑みながら答えた。 安室に、壮大なお金を払ってその返事を手に入れたのだ。七海という永遠の 友達を手に入れる事が出来た。真白の中での大切なもの、それは「仕事」と「 愛」だったのだろう。確かにこの二つは自分が唯一無二の存在照明になりうる ものだと思う。真白は”AV女優”という世間ではあまり大きな声では言えないよ うな仕事に就いていたわけだが、彼女はその仕事に誇りを持っていたし、何よりも一生懸命だった。それは真白が”自分を必要とされている””これは私にしかできない”と、感じていて、AV女優であるという事が彼女の中ではアイデンテ ィティとして形成されていた。だからこそ、それを失うことが何よりも怖か ったのだろう。そのアイデンティティを失うことは自分の「死」よりも恐れていた。だから彼女は乳がんの手術をして”仕事を失うこと”よりも、”死ぬこと” を選んだのだ。 次に真白が求めていたと思うものは「愛」だったと考える。真白はウェディングドレス姿になりベッドで寝転びながら、コンビニで丁寧に商品を”私なんか ”のために袋にせっせと入れてくれる店員、重たい荷物を届けてくれる宅配便のおじさんの事を申し訳なくも嬉しそうに話していた。彼女はお金を介さない優しさが怖いのだろう。真白と人格は正反対だけれども本質が自分と同じ”実は無個性”な七海と出会い、そして「一緒に死んでくれる?」という質問に「はい 。」と返事をもらえた彼女は、彼女にとって測りきれないほどの喜びであり幸せであったのだと思う。 彼女が亡くなった後、遺骨の受け取りを拒否されながらも安室と七海は真白 の実家へ出向き、そこで彼女が整形していたこと、仕事が近所に広まり親から 殴られ、家を出て行った過去の出来事から、自分でも万人受けのする仕事ではないことを知りながらも、整形までしてAV女優として売れるために必死にもがき苦しんでいたのだろう。親や周囲から影響を受けた価値観、刷り込みを押し殺して仕事をするも葛藤に苦しみ、その事に疲れてしまったのだろう
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