arika

リップヴァンウィンクルの花嫁のarikaのレビュー・感想・評価

3.8
最初の1時間観て、これは黒澤明が「白痴」でやりたかったことなのか、と思った。
「白痴」は黒澤明が敬愛したドストエフスキーの「白痴」を題材にしたものだ。
黒澤は「白痴」で、「この世の中では真に善良であると云う事は馬鹿に等しい。(中略)どうして人間は、自分の善意を殺し、人の善意を踏みにじらなければ生きてゆけないのだろう。何故にこの物語の主人公の様に、憎むこともなく、単純に清浄に人を愛してゆけないのか」と、パンフレットで語っている。
つまり、善良という白痴が、いかに人間として素晴らしいかを説いたのだ。
安室に何も言い返せずに、漬け込まれ、善良すぎる(怒れない)皆川が、この世の中においてどれだけ白痴であるか、を説く作品だと思っていた。

しかし、こんな固定観念があったからか、ただ見逃していたのか、安室の目的が不明だった。
最初は夫の不倫を装った男に騙させ、その男と通じていて、皆川を陥れ、金を搾取する悪人かと思っていた。しかし、バイトを紹介したり、緊急時に助けに行ったり、皆川に漬け入ろうとしていたのか、行動理念が不明だった。
ただ、そんな目的不明の奇妙さみたいなものが常に漂っており、作品自体も魅力的にしていた。
そんな奇妙さが常に漂っているからこそ、タクシーの運転手や不動産屋、ウエディングドレスの店員など、皆川に関わる全ての人間全員が奇妙で、奇怪に思えて仕方がなかった。
映画鑑賞中、常に疑心暗鬼になっていた。


いやしかし、岩井監督の映像は本当に美しい。
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