あかねこ

偉大なるマルグリットのあかねこのネタバレレビュー・内容・結末

偉大なるマルグリット(2015年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

画面がどこを切り取っても美しい映画だったが、あまりに予想を裏切る結末に呆気にとられてしまった。


偉大なるマルグリットは朗らかな感激屋であり、芸術を愛し、必要な相手に気前よく手を差し伸べる、素敵な女性である。
彼女の目を覗き込んだ・彼女に覗き込まれた人々は、誰でもみんな彼女を愛してしまう。

執事であるマデルボスもそのひとりであり、劇中時折挟まれる、女主人の写真に囲まれた彼の見せる暗い執着に、観ている私たちは徐々に不安を覚えるようになる。
まるで大木のようにマルグリットに寄り添い、夫の策略や残酷な事実から彼女を守り、声にすることなく励まし、無私のひとのように思えたマデルボスが、どうやら彼女になにか他の想いを向けているということが明らかになった辺りから、どんどん雲行きは怪しくなる。

夫との関係を取り戻しつつあるマルグリットに苛立ちながら他の女と関係を持ち、自分とマルグリットの小さな世界から彼女が出て行く前に、結局彼は永遠に彼女を虚構の中に捕らえてしまう。
カメラ越しにマルグリットと夫を見つめるマデルボスの目の、暗く冷たい輝き。


劇中ではさまざまな人々がさまざまな形の愛をマルグリットに向けているが、キリルがとてもよかった。
無邪気に彼女の歌声の醜さに興奮する彼は、もちろんマルグリットの望む形での観客ではなかったし、彼女の歌声を自分の芸術の一部として利用し、彼女を危険に晒しもしたが、自分の執着の暗さを自覚して隠し、遂には彼女自身を自分の幻想の一部として閉じ込めてしまったマデルボスに比べれば、なんて無邪気で誠実だろうかと思えてしまう。