だいき

君の名は。のだいきのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
3.7
2016年公開映画133本目。

僕たち、私たちの世界はまるで組紐のよう。

2016年日本アカデミー賞最優秀脚本賞、最優秀音楽賞受賞作品。
場所、時代関係なく、世界は繋がっているのだと表しているかのように、空の映像が美しく、または寂しく、非常に印象的だった。
空一つでも理解できるように、描写も人物像も言葉も緻密で繊細な作品であることは間違いない。

「運命の赤い糸」という言葉があるように、人と人は糸で繋がっているようなものだ。
関わる人の数だけ糸が増えていく。
編んだり、結んだり、捻れたり、解れたり、切れたり、結び直したり、色々あるから「人間関係」という言葉が生まれる。
つまり本作が示したいことは、組紐がほぼ全て担っていると言っても過言ではない。
劇中では、人の繋がり、時間の繋がりを「結び」という言葉で表現するのには、どれだけ考えても足りないくらい深い意味があると思う。

ストーリー序盤、自分たちが入れ替わっていることに気付くまでと、中盤の衝撃的な斬新な展開まではテンポ良く、かつコミカルに描かれていた。
しかしそこからは、決して悪い話だと思わないし、素敵な話だとも思うが、悪い意味で少し照れ臭く、恥ずかしく感じた。
おそらく多くの方が最も心を動かされた糸守のあの場所でのクライマックスシーンが、私にはクドく感じた。

その原因としては、入れ替わって他人の生活を過ごしただけで、お互いが惹かれる理由が分からないことにある。
斬新な展開後の、他人のために行動することは素敵なことなので何の異論もない。
助けてもらったから名前も知らないけどあの人のことが気になるって順番なら理解できるのだが、三葉→瀧は「結び」の説得力がない。
SFだからでは済まされない最も重要なところの組紐が解れている気がする。

あとRADWIMPSの音楽そのものは歌詞とリンクしていて見事なのだが、露骨すぎてMVのようになっているのは気に入らない。
音楽が前に出てこなければいけない映画ではないと思うのだが。
新海誠作品を観るのは初めてで、名前を知りたい、誰かに会いたいという感情をもとに人間を描くことが上手いと思った。
何よりアニメでも、ここまで映像のクオリティーが高いことに大変感銘を受けた。
しかし「名前はぁぁぁぁ」とか、日常生活ではまず有り得ない一人で叫ぶ感じが苦手。
アニメに限った話ではないが。

ありがちな題材であるにも関わらず、隅から隅まで美しく、組紐だけでも全て伝わるような表現力は見事。
糸守町という名前も「糸を守る」=「結び」=「名前を忘れない」という本作の軸の暗示ではないかと思う。
東日本大震災や熊本地震など、災害の被害者側の視点から描かれていると感じた。
災害の被害にあってしまって可哀想だという感情ではなく、予測し得ない出来事が起きたら防ぎようがないことは前提として、
その前に何をするべきだった?
何をすれば良かった?
誰と会うべきだった?
誰と話すべきだったのか?
などを問いかけている。
同じ年に公開した『シン・ゴジラ』同様に災害が多い日本だからこそ作れた作品である。

何があっても忘れたくないことでさえ、人は簡単に風化させ忘れ去ることができる。
永遠の感情なんてものは存在しない。
どんなに綺麗に編み込まれた組紐でも、いつでも容易く解けてしまう。
それでも「結び」は小さな希望を作り出す。
だからこそ誰しもが、なんとなく会ったことがある気がするという感情を抱き、なんとなく誰かを探している気になるのだ。
そして「結び」を作るために我々はまず相手に問うのだ。

「君の名は。」
と。
だいき

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