長靴を吐いたネコ

珍遊記の長靴を吐いたネコのネタバレレビュー・内容・結末

珍遊記(2016年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

※ネタバレ全く自重していませんので、今後観る予定のある方は読まないことをお薦めします。
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【珍遊記】 (Theatre)
2016年
総合評価 2.4 → ☆2.4

「シナリオ」 (1.0) … 2 → 2
「演出全般」 (1.2) … 2 → 2.4
「心理効果」 (1.5) … 3 → 4.5
「視覚効果」 (1.1) … 2 → 2.2
「音響効果」 (0.9) … 2 → 1.8
「教養/啓発」 (0.8) … 1 → 0.8
「俳優/声優」 (0.7) … 4 → 2.8
「独創性」 (0.8) … 3 → 2.4
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【ストーリー】
割愛。
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【魅力】
・努力

【不満】
・センス

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【少し突っ込んだ感想】
ジャンプ黄金時代に咲いた徒花とも言える「落書き」の実写版。

映画としては駄作なのだけど、一応原作を忠実に再現しようとした努力は感じた。そもそも原作自体が駄作なので、実写化の精度が多少向上したところで映画としての評価が上がったかどうかは謎だし、それは予想の範囲内だったので、個人的には監督の悪あがき、或いは想像を絶する奇跡的な演出を観に行った次第。結果的には前者だったけど。

原作は紛れも無く駄作なのだけど、ただの駄作ではなく、価値ある駄作と言える。好みが分かれるけど、個人的には面白さを感じたし、客観的に観ても評価すべき点はあると思う。

同時代に連載していた、漫画の頂点であるドラゴンボール(DB)と比較してみると、同じ雑誌に掲載されていたことが悪い冗談に思えるほどのクオリティの差があるのだけど、それでも珍遊記が一定の人気を保っていたのは、むしろクオリティとは別の魅力を持っていたことだと思うし、それは漫画分析対象として非常に興味をそそる。

まず、DBが何故名作化したのかを分析すると、一言で言えばそのアルゴリズムの秩序の高さにあると思う。バランスの摂れた画質もそうだし、何よりストーリーが階段を登るかのように直線的で分かりやすい。更なる強敵が現れて、主人公が何らかのキッカケで強くなったり仲間を増やしたりすることで、打倒することの繰り返し。これをアルファベットの順列【ABCDE…Z】で例えるとしよう。

珍遊記はどうかというと、漫画の最低限の基準に達していない画質に、行きあたりばったりなプロットや桁違いな下品さ、そしてそもそも構成要素がほぼパクリというオリジナリティの無さ。これはアルファベットで例えると【LHPUIQA…】といった、全くデタラメな配列になると思う。

アルファベットで例えたのは一応意味があって、要は読者の錯覚の話になってくる。DBは実際はどうあれ、読者にとっては極めて概念を構築しやすい要素が揃っていて、それが浸透しやすい理由となると同時に、パロディの材料にしやすい要素にもなっていると思われる。何故かと言えば、パロディの本質は、「元ネタの誤用」であるので、誤用が発生するにはまずもって、秩序が前提となる必要があるから。言い換えれば、真面目な漫画ほどパロディにしやすい。崩し甲斐があるので。

そして珍遊記はどうかと言えば、端的に言えば、「漫画の燃えカス」のようなものである。DBを含む色んな漫画をパクって、無茶苦茶なプロットで無秩序に扱っているし、そもそも漫画と呼べるのかどうかすら怪しい落書きレベル。これは熱力学的に言えばエントロピーが最大限まで高まった状態であるので、利用価値が無い。その証拠に、色んな漫画のパクリのネタになってるDBやジョジョと比較して、それなりに知名度がある珍遊記をパクっている漫画があるだろうか?あるかもしれないけど、私は知らないし、面白くないと予想ができる。何故なら、最初から無秩序なものを崩しようがないからである。

で、結局のところ漫画の魅力とは何か?と言われれば、DBのような秩序は名作の条件として重要かもしれないけど、充分条件ではない。その価値観は時代にも左右されるだろう。珍遊記が存在できたのは、同時代に同雑誌において、そういった秩序ある多数の名作漫画が当たり前のように掲載されていたので、一言で言えばその「無秩序さ故の刺激」によって人気が出たのだと思う。要するに、邪道であり、秩序から生まれた歪みでもある。しかし、紛れも無くその方向性で天才的な才能は発揮していたと思う。あれ以上無秩序な漫画をジャンプに載せれる漫画家はそうそう居ないと思うので。

その点から見て、実写版の抱える問題は多い。まず、漫画における秩序と映画における秩序は別物なので、漫画のカオスを映画に持ち込む時点で違和感が発生すること。

また、時代が違う。当時の条件に裏打ちされた面白さを、そのまま現代に再現しても魅力を発揮できないのは当然。たとえ、監督がそれを考慮して演出に変更を加えたとしても、その場合は逆に原作が足枷となってしまう。正に今作は、そのパターンだったと思う。監督の演出センスはそこまで酷くは無かったと思う。しかし、原作がこれ以上加工しようがないぐらい無秩序だった理由からか、どちらかと言えば、プロットなどに秩序を持たせる方向の演出になっていて、結果的に原作の持つ本質的な魅力からは更に遠ざかってしまったと思う。まあ、仕方ない…というか、努力は伝わったので満足です。俳優陣も頑張ってました。


【蛇足】
今、DBのような漫画を連載しても人気は出ないだろう。秩序ある展開は、刺激が無いとも言える。DBが人気があったのは、あくまで新境地を開拓したからであって、しかもその存在そのものが、漫画の概念に少々影響したと思う。要するに、同じようなプロット漫画は二番煎じとして扱われて、価値が下がる。価値が下がるとはいえ、秩序は名作化する条件として重要だろう。

現代では秩序と共に、無秩序も程よく含む漫画が要求されていると思う。名作としての秩序と、刺激としての無秩序。個人的に、それを程よく実現しているのが、「ONEPIECE」あたりだと思う。結果として、「ONEPIECE」は、名作でありながら、他の漫画ではイマイチパロディとして扱いにくい面を持っている新種だと思う。最初から若干乱雑なので、崩し甲斐が低いという意味で。

しかし、いい歳して何で真剣に漫画語ってるんだろう…。
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