Mila

SING/シングのMilaのネタバレレビュー・内容・結末

SING/シング(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

SINGは、これからの時代に求められる「多様性」「共生」というテーマをとてもよく表現していたと思います。動物がそれぞれ違うアイデンティティを持ち、それを踏まえた社会構造を柔らかく描いていたのが印象的でした。

例えば、ネズミのキャラクターがクマに追われて逃げる時。小さい身体でいろんな動物の間をすりぬけ、クラブから脱出する。こんなに簡単に出入りできてしまったら、入館料が取れないのでは?と思いましたが、ちゃんとエントランスにはネズミ一匹タダでは通さない警備員がいます。そして、ネズミは自身の体格でも操作できる普通の大きさのスポーツカー(彼の自慢の品です)に乗って、颯爽と逃走する。ユニバーサルデザインが行き届いた社会。

また、そんな社会の基礎があるためか、それぞれが自分の身体的特徴を受け入れ、他人の特徴も受け入れていたのが印象的でした。バンドガールのハリネズミは熱唱するあまり観客にたくさん針を飛ばしてしまいますが、歌い終えた後の彼女の「ごめんなさいね」という一言で、観客はパフォーマンスに対し大きな拍手を送ります。自分の特徴が与える他人への影響を考え、お互いに思いやる寛容な社会。理想的だと思った部分です。


【予想外にエグかったところ】
しかし、そんなリベラルな社会だからこそなのか、この世界にはひとつエグい現実が描かれていました。それは、普段ほとんどの人間が、周囲の人の個性、いわばその人の中身、その人が願っていることに無関心なこと……。本人の意思に無関心であったり、それを無視する人と暮らすキャラクターたちは、欲求不満はもちろん、諦観あるいは不幸を感じていました。彼らは主人公のコアラが主催する巨額の賞金つき歌のオーディション出場をきっかけに、自らの意思を再確認し、それらに打ち勝ちます。

このように、もちろん、自らの意思を持って現実を切り開いていく人を応援する内容ではありますが、同時にその周囲の人にも彼らを応援するよう促しているようにも感じられました。

例えば、もともとはギャングだったあるゴリラの父は、オーディションの練習のために自らの逮捕の原因となるミスをした息子に絶縁の意思を伝えるが、彼の活躍を知って脱獄してまでステージに駆け付け、息子に「お前を誇りに思う」と伝えました。この親子の再開のシーンはかなり丁寧に描かれていたように思います。彼の本当の意思を認めると同時に、それまで目を背けてきてしまったことを後悔したのではないでしょうか。

リベラルであるがゆえに、束縛が少なく、自分中心に動くことに慣れつつある社会、他人に無関心な社会。そんな世の中を生きる私たち、そしてさまざまな可能性を秘めた子どもの夢を育む環境を作る、保護者に対しての警鐘だったのではないか、と思います。
Mila

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