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アスファルトのhayatoのネタバレレビュー・内容・結末

アスファルト(2015年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

例えばアパートの2階に住む男性。何気なく当たり前のような気持ちで、自分には用がないからエレベーターは使わないと口にしてしまう。
エレベーターの修理費を住民間でシェアする代わりに健康器具を買う。その器具が元で歩けなくなるがエレベーターは使わないと言ってしまった。住民たちに、人に助けを求めれない男は誰もエレベーターを使っていない時間にこっそり使おうとする。どうも誰も使わないのは深夜に限るので深夜に自販機が動いている近くの病院へ侵入する。やっとありつけたお菓子が機械の中で引っかかって出てこない。そこで休憩中の看護師に出会う。怪しまれたくないからナショジオのカメラマンだと嘘をつく。

吐き捨てた言葉が自分に返ってくることで自分の人生に「嘘」をつきはじめてしまう。自分だけならその嘘のままでも誤魔化して生きてもいい。今まではそう生きてきた。
そこへ惹かれる人と出会ってしまった。
嘘を嘘じゃないままにするために、自分自身を乗り越えようと自分の人生を動かしていく。

それぞれの人生で抱える課題を三つのシチュエーションで、場所は荒廃したエリアに位置する集合住宅。そこを軸にドラマが展開する。街では奇妙な音が鳴り響き、住人は思いおもいにその音の正体を気味悪がり、迷信めいたことを口にする。

本当は自分がずっと渇望していることを出会いの中で気づき求め合い、会うたびに惹かれあっていく。それが日常の言葉で紡がれていく。
劇中で青年が俳優の女性俳優にオーディション用ビデオを撮る際に演技の演出をするシーンそのものを、この映画自体が体現している。それが映画そのものとして、メタ的に成立する自然な演技が光る。

嘘を重ねる姿にそんな回りくどいことをせずに正直に言えばいいとか、便利な翻訳の道具があるじゃないかとか、こんな落ぶれた女性俳優がいそうだよね といった言葉はこの映画の感想としては言葉足らずな気がしていて。投げかけられたパーツでしかない。
誰かについた嘘、自分についた嘘。
彼らが嘘を本当にしていく美しさがある。

フランス語を喋っていたり、どこか具体的に移民が多く住む場所を想起する、そんな景色はあるが、この映画は地球上どこでも起こる人々の物語として、ぼくは受け取れた。

システムで分断された人々の景色。
本当はみんな欲している温かみがあるじゃないかと思わせる。空から見守る目のように、鳴り響く音が人々を見つめている。
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