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愚行録のKHのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
4.4
2024年の年間ノルマ70本中12作品目。
見させて頂きました。

邦画に強めな友人から少し前に勧められててクリップしておりました。
この度アマプラで配信が開始されたので早速視聴。

また、事前情報的には妻夫木聡が出ると言うことと、タイトルからもわかる通り
なかなかの胸糞。と言うことだけはまぁ想像したと言うか、覚悟したと言うか、
そんなところです。

まずは、ネタバレなしの率直な感想をば述べます。


『はっきり言って物凄い良い映画でした。
この後色々言うとは思うんですが、めちゃくちゃ面白いですし、凄まじい映画なのは間違いないです。ただ、、

僕は、この作品見てなんだか死にたくなっちゃいましたよ。
んー、正確には人間を辞めたいなぁって思ってしまいました。
幸いなことになんとなく僕はこう言ったサイクルからは外れた部分で生きているとは思うんですが、
それでもこう言った世界は確かに自分の近くには存在していると言う予感。
また、自分の中にも確実にあるとわかる感情。
そんな見たくない様な部分を曝け出された様な気持ちになってしました。
もう、本当にHPが空っぽになってしまいましたよ僕は、
それを演じる役者の怪演というか、本当にお芝居がすごすぎる。どうやったらこんな演技が出来るのでしょうか。心がズタズタになっちゃわないか心配です。
兎にも角にも、人生で一回でいいので是非お勧めしたいと思います』


またここから先は作品のネタバレを含む感想になりますので、まだ観てない方はご注意を、ネタバレを含む感想と妄想による考察も入りますのであしからず。。



まず冒頭バスの中のシーンにて
座席に座っていたところをお婆さんに席を譲りなさいと告げられるシーン。
田中こと妻夫木聡は少し高圧的なサラリーマンを静かに睨むと渋々と席を譲ります。

しかし、バスの中で転倒し、バスを降りた後は足を引きずって去っていく、
席を譲れと言ったサラリーマンは気まずそうに目を逸らします。
しかし、田中はすぐに足を引きずるのを辞め普通に歩き出すと言うシーンでした。

非常に考えさせられると言うか全てを見終わった後でこのシーンが持つ凄みがわかると言うか、

本来田中という男はこういう男なのだとわかるシーンでした。
つまり彼はお年寄りに席を譲りなさいと他人に言われたことを『あ、すいません気が付かなくて、今代わりますねー』と言う心境ではなく

他にも席を代わってくれそうな若者がいるにも関わらず、物欲しそうに自分の席の横にピッタリと付いて何も言わない。代わって欲しいなら自分からそう言えばいいのに、
それを『おい、お婆さんが立ってるんだから席譲れよ、何してんだよ?』と言われると、

はっ?代わって欲しいならそう言えばいいだろ?とは思いつつも、それを口に出さずに
あえて演技として足の不自由なフリをして関わった人間に罪悪感を与える方法を思いついてそれを実行した。これから貴方が見る映画はこういうモンです。と言われている気がします。

こう言ったことは確かに現実にもあるかもしれない。彼の人生は決して幸せなものではなく、今まさに妹に会いに刑務所に行く所なのだ。そんな心情も知らずに席を譲る譲らないなどは頭の片隅にもなく、

普通に暮らせている人達に罪悪感を植え付ける事でなんとか精神性を保とうとしたのかも知れません。

また、この作品はおよそ関係性の無さそうな二つの事件を中心に進行していきます。

田向一家惨殺事件と

田中光子の幼児虐待事件だ。


バスのシーンが終わると田向家のシーンになるが惨殺された家族そしてお風呂で血を洗う誰か。というシーンですが、

僕は結局最後まで本当は殺したのは兄か妹かどっちなのだろう?と考えてました。

作中では光子から実際に殺したのは自分だと告げられますが、1人独白している光子は
既に冷静さを欠いていたというか、
計画的ではなく犯行はあくまでもデパートで夏原さんに会った時に、
無視された、もしくは自分のことなど全く覚えてないという顔を向けられた事で、辛うじて繋がっていた糸が切れてしまい
結果衝動的に犯行に及んでしまったと説明されます。


仮にこの事件が計画的な犯行ではなく、
衝動的に行われたとするならば、このシーンの最後にシャワーで証拠隠滅と言うか、

冷静に血を洗い流すのがどうも犯人像とかけ離れていると言うか、光子はそこまで冷静にシャワーなんて浴びるかなーという気持ちになりました。

では、
仮にシャワーを浴びていたのが兄の方なら少し納得できたと言うか。
殺したのは妹で、助けを求めた妹から兄に連絡が入り、証拠を隠滅しに田向家に来て証拠を隠したのでは?と考えました。

それならば、拘置所で光子が告げた
『秘密』と言う単語ももっと別の意味が出てくると言うか。
あの単語は結果的には2人の間に『子供』がいた事、または2人の肉体関係を指しているんだとは思いますが、
秘密はあくまでも2人で共有するものだとするならば、

彼は妹の殺人の証拠隠滅を手伝う事で、
2人の間に肉体関係があった事を口止めする様に交渉したのでは?と思います。

冒頭のシーンに戻りますが、彼ならばそれぐらいはやるというか、そう言う男なのです。

カフェで働く臼田あさみを殺した時、犯行を元彼の中村倫也の煙草をちゃっかり残す辺り
非常に慣れていると言うか、職業柄警察がどの様に証拠を集めるのか理解しているのかも知れない。
このシーンも僕の妄想に近い考察を有力にしてくれます。

しかしながら、この作品の登場人物は皆
人が人と付き合っていく上で少なくとも感じるであろう他者への劣情や嫉妬を絶妙な表現で見せてくれた様に思う。

例えば田向は女性を自身の出世の為の道具として観ている部分があり、
就職の際に、別れた元カノである市川由衣を利用しようとした。
また、そんな田向の思惑を受け入れて自分のモノにしようと利用した。

田向の同僚もそうで、1人の新入社員を歓迎会で手を出した後、それをネタに自分のモノにしようと平気な顔で嘘をつく、
またアッサリと手に入った松本まりかを振り、その後田向と居酒屋で笑い話として話せてしまうのだ。

物凄い嫌悪感があるシーンとは言え、
では自分の中にこう言った感情が全くないか?と問われれば、もしかしたらあるのかも知れない。実際に行動には移さないだけで
そんな風に考えたことが一度もないかと言われれば、何も言えなくなってしまうのが
この作品の真髄と言われている様な気になります。

また、光子の独白のシーンでは本当にとんでもない演技というか、どうしてあんな演技が出来るのか。
本当に満島ひかりはバケモンです。。俺なんか満島ひかりが泣きながら笑ってるみたいな演技見るとダメなんですよ。なんかすごく心臓が小さくなった様なしんどい気持ちになってしまいます。

目の焦点は虚で光を失い、殺しの説明を詳細に話す中にも少しだけユーモアを交えてたり、さらにはそこで自分で笑ってしまうという精神性、
(きっと憧れの夏原さんだから包丁も高いやつでよく切れるetc...)
明らかにもう彼女の心は破壊されてしまっているのがよくわかる。
またそんな彼女のただ唯一の望みは自分の好きな人と子供を作り、三人でただ普通に暮らしたい。
しかし、それすらももう叶わないとわかると、光子はおそらくですが命を断ってしまいました。

このシーンも少し違和感がありました。
光子は娘を1人で育てていました。
仮に父親が不在でシングルならば身内の兄と一緒に暮らすというのは世間的にはそこまで不思議ではないですし、周りにもそう言えばいい。

しかし、兄は光子と子供の元から逃げている節があります。でなければ彼女がシングルとして子育てをし、子供が食事を与えられずに入院することも、
幼児虐待として逮捕されることもないのだ。


彼は、田向家惨殺事件を隠蔽するために
光子と子供の元を去り、彼女を幼児虐待として通報し、彼女と子供の2人をこの世界から葬る事を考えていたのかも知れない。

彼にとって実の妹と肉体関係があった事は世間的には絶対に知られたくない事実であり、
彼は家族よりも世間体を取ったことになります。

そう考えると、父親から受けていた暴力ももしかしたら妹と肉体関係があったせいなのでは?と思えてきます。

田中が市川由衣に会いに行った際、市川由衣から『似てきたと思いません?』と聞かれる。田中は『誰に?』と聞き返しますが、
市川由衣は答えません。言わなくてもわかるでしょと言ってます。

初対面の市川由衣の会ったこともない旦那に似てきたでしょ?とは聞くはずもない。

この子供は間違いなく田向の子であり、
その後、田中は自分の子供に会いに行きます。

静かに自分の子供を見つめる彼は
『そうか、俺のこと言うことは、このまま大きくなったら俺に似てきたりするのか』

と考えていたと思います。

では、田中は本当にそんな悪い奴なのか。

光子は独白の中で父親に強姦されたと母に報告したら、『誘惑したあんたが悪い』と逆に殴られたと語ります。

光子は兄を誘惑したのか?この真相は本当の意味で闇の中というか、

僕は冒頭のシーンから田中はそういう人間だと語りましたが、
本当は光子に唆された事から始まってしまったのでは?
そうも思えるのです。彼がそんなに色々と暗躍しているにも関わらず、終始ずっと表情が暗いのには何かあるんだろうなと思うのですが、

結果的に彼が何がしたいのかがずっと見えてこないというか、取材を通して真相に迫ってはいくものの、妹を守るとか、子供を救うという姿勢が全く感じられず、
光子に辿り着きそうになった臼田あさみだけはキッチリと殺している辺り、

真実だけはバレない様にしているものの、
それで何かが彼の中で変わるのかが全く見えてこないというか、バレてもバレなくても不幸であるのは変わらない気がします。

はぁ、なんか書いててしんどくなってきました。今書いてるのは映画を見た妄想なので、
真実はわかりませんが、

そんな事を考えてしまってもう死にたくなってしまったという感じです。書いてれば冷静になるかと思いましたが、ちょっと体調が優れないので、

今回はこの辺にします。
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    2015年5月から見た映画の感想。 昔はなんつーか懲罰みたいに映画を借りちゃあ見、見ちゃあ借りを繰り返し繰り返しやっててよ。そんでみんなが必死に勉強とかスポーツとかやってる時に、そいつらなんかとても…

    2015年5月から見た映画の感想。 昔はなんつーか懲罰みたいに映画を借りちゃあ見、見ちゃあ借りを繰り返し繰り返しやっててよ。そんでみんなが必死に勉強とかスポーツとかやってる時に、そいつらなんかとても知らない映画の知識とか蓄えて、んで偉そうに主に女子とかに評論もどきを垂れてた糞ガキだったけど、なんだか最近やっとそんなカスみたいな概念を気にせずになんでも観れるようになった気がするよ。俺。