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彼らが本気で編むときは、のkのレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
4.2
『かもめ食堂』も『めがね』も大好きで、監督が「荻上直子・第二章の始まり」と公言していたこの映画の公開を心待ちにしていた。

なんといっても生田斗真演じるリンコが内面も外見も美しかった。トモと過ごし、母性が芽生えていくにつれて、磨きがかかって美しくなっていた。

私の周りにはLGBTの人たちがいない(少なくとも私が知っている範囲で)ため、彼らの現状は本やニュース、テレビなどでしか知らないが、私はリンコはとても愛に恵まれた人なのだと思った。息子が膨らまない胸に涙していることを見て、下着を買ってきたり、詰め物を毛糸で作ってくれた母親。リンコを心の底から愛し、結婚しようと誓うマキオ。リンコがリンコのままで働ける職場とそれを受け入れる同僚。もちろん、心無い声や視線に曝されることもたくさんあるが、それと同時に多くの愛に触れている女性だ。

エーリッヒ・フロムの『愛するということ』では“愛”が次のように定義されている。“愛とは愛を生む力であり、愛せないということは愛を生むことができないということである。愛は愛とだけしか交換できない。もし人を愛してもその人の心に愛が生まれなかったとしたら、その愛は無力であり不幸である。” 母親が、マキオが、同僚が、リンコを愛したからこそ、リンコはマキオやトモに対する愛を持つことができたのだ。

これは憶測でしかないが、現実に生きるLGBTの人たちの多くは、リンコよりももっと、理解を得ること、愛を得ることに苦しんでいるのではないかと思った。もし、理解してくれる母親も恋人も職場もなかったら、カミングアウトができる環境に身を置いていなかったら、そう思うと、とても苦しくなった。

“普通”なんて、そんな誰が決めたか分からない、勝手に線引きされた基準でモノゴトを判断してしまう人間の身勝手さ、横暴さが怖くなった。世界は簡単に変わるものではないけれど、決して綺麗とは言えないこの世界で強く気高く美しく生きるリンコの姿を観たすべての人たちが、“普通”を疑うところがスタート地点なのだと思う。
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