あじゃ

エル ELLEのあじゃのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
3.2
住宅街の住人27人を殺し無期懲役で服役中の父親は、世間から怪物と言われている。娘である主人公ミシェルもそう言っているが、物語を最後まで見ると、ミシェル自身がモンスターなのだと知る。

父親の事件のことは深く掘り下げられなかったので想像するしかないが、ミシェルがそうなるようにコントロールしたのではないかと思う。なぜなら、ミシェルは復讐を自身の手で行わないから。レイプ犯だったパトリックを殺したのも息子のヴァンサンで、自分はパトリックとの関係について虚偽の発言を警察にしている。近隣住民を殺したのは父親かもしれないが、敬虔な信者を殺人鬼に陥れたのは怪物であるミシェルだったのかもしれない。

そして、父親との面会当日に父親が自殺。しかもミシェルとの面会予定が通知されてからすぐに。これは、父親がミシェルに会うことを恐れたからなのは明らかで、母親が「父親は普通の人間だ」と言っていたのも間違いではなかったのかもしれない。

ミシェルは自分の望み通りにいかない周りの人間を次々と破滅に向かわせる。破滅から免れたのは息子のヴァンサンくらいか。あとは夫婦関係は破綻したけどミシェルの元にとどまったアンナ。
ヴァンサンとアンナは血縁関係の親子以上に親子らしく、ヴァンサンの奥さんの子供も恐らくヴァンサンとは血が繋がっていないが、愛情を持って育てている。
この「普通」の人たちを今後、怪物のミシェルがどう仕向けていくのか、恐ろしいが気になるところ。

一見ハッピーエンドのように見えたミシェルとアンナのエンディングも、とても不穏な空気を纏っている。墓場を歩く2人が行く先に何があるのか…。

追記:
ミシェルは自分で復讐せず息子に殺人をさせたこと、これは不可抗力だったし、ミシェルが計画していたとは思えない。だって、パトリックにとったらプレイの一環だったんだろう。「なぜ…」って言って死んだのも、お互いプレイのつもりだったのに何で俺殺されるの?ってことでしょ。ミシェルも途中までプレイのつもりだったけど、死ぬんならしゃーないね、さいならって感じでニヤけてたし。ギャグセンスが恐ろしいわ。
つまり、パトリック殺害に向かわせたのは意図的ではなかったにしろミシェル自身である。父親の事件も恐らく意図した訳ではなかったんだろうが、無意識のうちに流れをコントロールしたのはミシェルだったと考える。

ミシェルは自分の怪物性に無自覚である。父親のことを怪物だと言っていたし、母親にもあなたのせいで思春期の私が傷ついたと言っていた。ミシェルにとって自分はまともなんだろう。気に食わない人間が多いのもわかる。
そして、隣人のパトリックの奥さんも、同じように怪物性を持った人間だと知る。彼女が少女時代のミシェルと被る…。

世の中みんな自分を是として生きている。ある意味みんな怪物を内に持っているわけで、その点で見ればこの映画は至って日常的な作品なのだ。
あじゃ

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