だいき

マンチェスター・バイ・ザ・シーのだいきのレビュー・感想・評価

4.2
2017年公開映画57本目。

人は時の流れに逆らえない。

2017年アカデミー賞主演男優賞、脚本賞受賞作品。
「生きる」ことより、「死ぬ」ことの方がはるかに容易い。
「赦される」ことより、「罰せられる」ことの方が時には楽である。
それでも人は、赦されながら生きていく道を歩むしかない。
本作は救いのない辛さや、苦しみを背負った一人の男を通して、静かに手を差し伸べてくれる人生の物語だった。

誰にでもある辛い過去。
どれだけ戻りたいと願っても、どれだけやり直したいと願っても、時は前にしか進んでくれない。
人間は過去と共に生きていかなければならないのだ。
本作は、過去の失敗を乗り越えることが必ずしも強さではないと語る。
重要なのは、その失敗と向き合うことである。
向き合うことで初めて、今の自分の状況を見つめ直すことができるのかもしれない。
周囲の人のことも、自分の心のことも。
つまり、過去に打ち勝つことも、過去から逃げることも、それが「生きる」ということだと肯定しているのだ。

一見重苦しい作品のように思うが、会話の端々にユーモアを感じさせる。
私たちも日常生活を送る中で、当然のように会話にユーモアを含ませる。
真面目で辛気臭い話ばかりではない、ユーモアがあって普通なのだ。
息苦しさが続く中でのちょっとしたユーモアは、正直全く笑えないほど観るのが辛かった。
でもその辛さこそが、我々が歩んでいる「人生」だと静かに淡々と描く。
乗り越えられない、辛すぎて。
やり直しがきかないのだから、そんなこともある。
乗り越えられないと分かっただけで十分だ。

無理して乗り越えようとしなくても、苦しい時は逃げてもいいんだよと温かく肯定してくれるような素晴らしい作品だった。
だいき

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