ダイアン

ウインド・リバーのダイアンのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.5
テイラーシェリダンが、辺境で司法や権力の届かないところで生きる人を描き続けている。「ボーダーライン」も「最後の追跡」も社会問題といえばそうだが、そんな“ソーシャル”な作品ではない。共通するのは絶対的な孤立。地獄であり、誰もがここから逃れたがっている。生まれ故郷や大地を愛でるような感性はおおよそ皆無で「北の国から」は残念ながら通用しない。最果ての地。追いやられた人々。外部から来る人間にはあからさまな敵意を示し、ムラ社会と呼ぶにもあまりに殺伐としている。中上健次のいう「路地」にもしかしたら近いのかもしれない。

法律や公平性を担保するもは何もないから、人々は自然と銃を持つ。生き残るために。西部開拓時代にガンマン達が果し合いをするそれと状況は変わらず、もしあるとすれば土地が広がっていく開拓ではなく、この世の限りが見えてしまい自らが手にした生きる術を守ろうとする閉塞であることかも。彼らに攻撃性はなく、自らを守るために引き金を引く。
テイラーシェリダンは毎回銃を象徴的に撮る。強調したりはしないけど、明らかに意識として他の映画とは一線を画すように撮っている。銃の扱い方や距離感、どれほど撃つか、計算している。ドライに描くほどに、彼らの暮らしと死の近さが際立ってくる。「さぁ今日は採掘場の捜査だぜ」で、に行ったら銃撃戦。日本ならヤクザ映画だ。ウィンドリバーでは、それが市井の人たちの暮らし。銃規制のデモだって、彼らの耳には届かないだろう。

脚本に忠実に撮っている雰囲気も良かった。余計なシーケンスはなく、寄り道もないし、伏線を張ることすらしない。クライムサスペンスでありながら知的な謎解きや耐え難き動機なども存在しない。ここに映っているもの以外は何もない。そうやってたった数日間の物語を作ることにより、山の先に広がるアメリカそのものに自然と問題意識が向いてしまうのだ。なぜなら観客は皆、山の先の人々だから。脚本でこの映画の8割を作り上げてしまうテイラーシェリダンの凄さだから、初監督で大変だったことはとにかくロケが寒かったことくらいなんだろう。
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