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ウインド・リバーのひでのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.5
「元々は肥沃な違う土地で生活をしていたのに、農業に適している土地は白人が占領してしまった。こういったネイティブアメリカンの保留地はじつは約 100 か所あります。アメリカだけでなくカナダにもある。オーストラリアにはアボリジニという先住民がいました。この映画に登場したあの一族は、荒廃したウインド・リバーという土地に押し込められただけなんです。アメリカの国旗が逆さになっていたシーンがありましたがあれは保留地に住む人々の敵意の現れなんです。」

数多くこのような事件が起きているにも関わらず失踪者、死亡者数の人数が未だ分かっていない、<ガンで死亡するよりも殺人での死亡率が高い場所である>という知られざる驚愕の事実に対し、なぜこういったことが起きているのか疑問を投げかけると、事件として扱われなければ調査すらされないという実態、アメリカの自治体警察の制度につ いても話が及び、場内では驚きの声が上がった。

現代のネイティブアメリカン保留地に追いやられた人々の生活について、農業をすることもままならない彼らには「カジノ営業権」が認められ収入源になっていることにも触れ、この方法が結果として楽をして収入を得る怠惰な生活に繋がり、生きがいを失い、やがて薬や酒に走り麻薬中毒や犯罪率の増加を招くきっかけとなり負のスパイラルとなっている点も指摘。

「現代のアメリカの闇を見つめ切り込んだテーマを扱った映画が作られるようになったことは革命的」とも語る。

「昔の西部劇では、保安官が登場し〝インディアンは悪いやつ“として戦う一方的なものでした。私が大学生の時に『ソルジャー・ブルー』(1970)という映画が公開され、それは当時画期的だったんです。〝ソルジャー・ブルー=騎兵隊“が先住民を虐殺する。後から入ってきた者たちがこのように虐殺をしてきた、ということにようやく目が向いたんです。ネイティブアメリカンの置かれている現状、問題を取り上げたこと。今またこういう形で人々の意識が変わってきたんだ、と見ています。」トランプ政権に代わり問題となっている、ゼロ寛容政策やメキシコへの制裁についても触れ、テイラー・シェリダン監督がアメリカ・メキシコ国境で起きている麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』に続き、『ウインド・リバー』の題材として取り上げたことが興味深く、その作家性について「エンターテイメント、人間ドラマ、親子の情感、現代的な若い女性の成長物語、緻密でよくできている脚本の中にアメリカの闇が浮き出てみえてくる。もう一度観るとさらに気付くところがあり、メッセージが詰まっている映画」と熱く語り、トークイベントを締めくくった。

画像2: ■日程:7月19日(木) 20:30~21:00 ■会場:神楽座 (千代田区富士見 2-13-12 株式会社 KADOKAWA 富士見ビル1階) ■登壇者:池上彰氏(ジャーナリスト)/MC:伊藤さとり
衝撃のクライム・サスペンス『ウインド・リバー』予告

衝撃のクライム・サスペンス『ウインド・リバー』予告

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[STORY]
厳寒の大自然に囲まれたアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー”で見つかった少女の凍死 体―。遺体の第一発見者であり地元のベテランハンターのコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は案内役として、単身派遣された 新人 FBI 捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)の捜査に協力することに。ジェーンは慣れない雪山の不安定な気候や隔 離されたこの地で多くが未解決事件となる現状を思い知るも、不審な死の糸口を掴んだコリーと共に捜査を続行する・・・・。

監督・脚本:テイラー・シェリダン(『ボーダーライン』『最後の追跡』脚本)

出演:ジェレミー・レナー(『メッセージ』『アベンジャーズ』シリーズ)エリザベス・オルセン(『アベンジャーズ』シリーズ、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』)、ジョン・バーンサル(『ボーダーライン』「ウォーキング・デッド」シリーズ)

音楽:ニック・ケイヴ(『欲望のバージニア』『最後の追跡』)、ウォーレン・エリス(『裸足の季節』『最後の追跡』)
(出典:https://cinefil.tokyo/_ct/17191227)
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