あるてーきゅう至上主義者

カフェ・ソサエティのあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
4.0
いやー、これは大好きだ。絵作りの巧みさやレトロな雰囲気が素晴らしい。そして、つくづくアレンはニューヨーカーなんだなあと再認識。間違いなく、今年ベスト級の一作。

とあるカップルのハリウッドを舞台にした話なので、「歌と踊りがないラ・ラ・ランド」みたいな感覚もある。ただしラ・ラ・ランドが現代のハリウッドを描いているとしたら、本作が描いているのはグレタ・ガルボや、ビリー・ワイルダーやルドルフ・ヴァレンチノなどが活躍していた1930年代の古きよきハリウッド。暖色に統一された衣装や美術や照明が、優しくノスタルジックな時代を巧みに掬いあげている。

話そのものは、とあるカップルの出逢いとその後の時代の流れの中での関係性の移り変わりだ。画面は華やかだが話はシリアス。その塩梅も見事。かつて夢を見ていた頃のハリウッドの風景は、オレンジ色の色彩が中心で暖かいが、終盤のニューヨークの冬景色はひどく寒々としている。緻密な画面作りだと思う。いかにも成熟したアレン映画だが、若い頃からの「恋下手な青年の成長」や「ユダヤ人としてのアイデンティティとその精神的葛藤」といった要素はちゃんと入っている。そこはいつものアレンでほっとする。


夢を追うのか?それとも現実に寄り添って生きていくのか?これは現代だけでなく、どんな時代にも確実に存在していたテーマだったのだと実感。仮に夢を諦め現実的な生き方を選び取ったのだとしても、かつて夢を見ていた頃の思い出は大切にしながら生きていけ。この映画を見終わったあと、ふとそんなメッセージが胸に響いた。