あるてーきゅう至上主義者

午後8時の訪問者のあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
3.7
前作、「サンドラの週末」と同じく社会的格差や貧困を正面から描いている。ただ、本作はミステリ要素(といってもそこまで濃厚じゃないけど)も絡み、また群像劇としてもなかなか見応えのある作品に仕上がっていると思った。

当初、女医のジェニーがドアベルの呼び掛けに応じなかったのは仕方ない部分もあったのでは?と思いながら見ていたが、その本当の理由を研修医に吐露する場面で、その意外さに絶句した。しかしその理由は、ある一定の社会的な力を持つ人なら、いつでも行使しかねないものでもある。

そう考えると、彼女に助けを求めてきた少女が黒人であることはきわめて示唆的だ。地元出身の、さらに医師という高い身分を持った金髪の白人であるジェニーと、あまりにも対照的な存在であったといえる。この少女を見殺しにしてしまったというあまりにも重い事実が、これまで社会的な軋轢から目を閉ざしてきたジェニーを変え、周囲の人たちと歩んでいく人間へと成長させたのだろう。終盤でジェニーの努力がほんの少し周囲に希望の光を与えられたことが分かるとともに、ラストは成長した彼女の姿を端的に描いているように思えた。

少女の正体や死の真相が明らかになるにつれ、いくつものたらればが、それこそジェニーが診療所のドアを開けなかったこと以外にも重なって、悲劇へと結びついたことがわかる。この構成の巧みさは、さすがダルデンヌ兄弟である。その一方で、決して手腕をひけらかすようなあざとい映画ではない。音楽が完全に排除されたドキュメンタリータッチな作風は、我々がいま生きている世界に根を張って作られた作品であることの証拠だろう。次の作品にも、大いに期待したい。