映画おじいさん

ラビング 愛という名前のふたりの映画おじいさんのレビュー・感想・評価

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妊娠を男に告げる女。男ははしゃぐことなく噛みしめるように喜ぶ…。なんてことないオープニングが本作全体の空気を表していることに次第に気づいて震えました。

とにかく何ごとに対しても噛みしめるように感情を出す主人公とヒロイン。怒っても怒鳴ったりは決してしないし、悲しくても泣き叫んだりは決してしない。

警察が踏み込んで来た時なんか観客の私が代わりに怒鳴りたくて震えたほど。
かといって観ていてフラストレーションが溜まったりしないのが本作の凄いところ。むしろ落ち着いた気持ちで二人に見入ってしまう不思議。

どうして、あそこまで怒ったり泣き叫んだりせずにいられるんだろう?と思ったけど、これは闘いとか諍いの映画ではなく、ただひたすら夫婦の愛を描いた映画だと思うと合点がいく。

なので、主人公が黒人の仲間(←義弟だったか?)から「お前なんか離婚するだけでこの苦しみから逃げられるだろ。でもオレたちは一生逃げられないんだぜ(大意)」と言われる頃には、彼の沈黙にも納得がいった。

誤解を恐れずにいえば、人種差別問題も夫婦間にある多くの問題の中のひとつとして扱われていたように。要はそれはメインじゃないと。夫婦の愛がメインだと。
だから法廷のシーンなど簡単にすまされていたのでは。

どこか不穏な主人公の建築現場での映像と、車がビュンビュン屋外で遊ぶ彼の子供の映像が、交互に重ねられてハラハラな時間も素晴らしかった。
大事が起こらなくて、なーんだとはならずに本当に安堵の気持ちになった。私にもこんな気持ちが残っていたとは。

車が猛スピードで隠れ家に向かってきて大慌てのエピソードも◎。こういうユーモア大好き。

ちょっとしか出てこないけど、ライフのカメラマン役のマイケル・シャノンも助演賞級の好サポート。
夕飯の時に主人公が彼の話を聞きながら楽しそうな笑顔を見せるところは、主人公はただぶっきらぼうなだけで、決して人間嫌いではないことが静かに分かる名シーンで少しこみ上げました。

言葉が少ない分、本作もまた主人公とヒロインの表情を見る映画。昨年公開の超傑作『さざなみ』と通じるものを感じたのは私だけではないでしょう。

何度も出てくる主人公がブロックを積み上げて家を築いている姿。辛抱強く愛をゆっくりと積み築きあげていることのイージーなメタファーだろうけど、その分かりやすさも最高。

最高裁に出廷しない主人公が弁護士に託した裁判長への伝言に涙止まらず。。
さらに最後の”I miss him. He took care of me.”の一文に嗚咽止まらず。。

もしウソ泣きをしなければならない状況になったらこの映画のことを思い出せばいい。

出てくる実際の写真がたった一枚だけというのも最高。エンドロールにありがちな、何枚もの写真がアルバム形式で出てきたりしたら、たぶん監督に怒りのメールを送っていたはず。。

2017年上半期ベストは早くもこれに決まりでしょう。大傑作。