だいき

ハクソー・リッジのだいきのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.2
2017年公開映画52本目。

地獄の中で神を見た。

2017年アカデミー賞編集賞、録音賞受賞作品。
本作は戦争映画だが「戦争の映画」ではない。
前半一時間でデズモンド・ドスの生い立ちを丁寧に描く。
少年期に起きたある事件で、人を傷つけた道具、煉瓦とベルトは青年期で人を救う道具になる。
デズモンド・ドスという男に変化があったことを瞬時に理解させる青年期では、妻との出会いをまるで恋愛映画かのように描く。
その後の新兵訓練のシークエンスでは、戦場で自らの思想を貫くことの困難さを痛感する。
世界が変わったかのように突然切り替わった戦場、すなわちハクソー・リッジで、これらの一連の流れが彼の行動に集約される。
少年期から描いたことこそが本作の最大の良さだと思う。

目を伏せたくなるほどの戦闘シーンも、彼の意思の強さを物語る。
ヘルメットを吹き飛ばしてからの頭への銃撃など、何を装備してようが一寸先は死の状況。
周りは血と肉塊。
飛び交う銃弾にどこから現れるか分からない敵。
誰でも自然と精神崩壊し、理性を捨ててなんとか生き延びようとするはずなのに、銃を持たずに助けることを選択する。
凄惨な戦場のシーンはすべて、彼の行動を描くためにあったと言っても過言ではない。

人の命を助ける。
至って当たり前のことのように思うが、世の中が異常な時、正常は異常となる。
戦争という異常な世界では、人を殺すのが当たり前である。
故にデズモンド・ドスの行為は異常と見なされてしまう。
果たして彼は間違っているのだろうか。
全編通して、デズモンド・ドスの行動を描いた本作は、意思を持ち続ける勇気と賞賛に溢れていた。
もはやアメリカと日本が争っていたことなど脳から掻き消された。
それほど本作を戦争の映画として観ていない。

戦場に行かなくても、自分の思想を貫くことは難しいのに、それを戦場でやってのけたデズモンド・ドスに心を奪われる素晴らしい人間ドラマであった。
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