ジョニリミラ

シーモアさんと、大人のための人生入門のジョニリミラのレビュー・感想・評価

3.8
ドキュメンタリー映画をシアターで見るのは数年ぶりで、
そもそもこのジャンル自体が少し苦手で、
後ろ向きな理由とかではなくて、
ドキュメンタリーにはすごく強い力があって、自分の今までの人生やこれからの人生をも否定したり変化させてしまう力さえ備えているので、ただでさえ流されやすいから苦手としていました

この映画は無理やり自らを暴くような力強さはなく、そっと寄り添うような優しさを感じました。
自己啓発本などとも異なる人生の指南で、
言葉1つ1つが無理なくすっと心に染み渡りました。
この映画は、学生だから大人だからとかいう、そんな枠なんてどうでもよく感じて、人間というものが生きている限り何か問題を抱えていて、抱えていない人はそんなにいなくて、特に才能を上手く使いこなせず持て余したり、怠惰に生きてしまっている人へ是非に見て欲しい

私は美術大学に通っていて、才能や評価や批評の話は常日頃から考えたり耳にしたり話したりするのですが、私の中のそういうものの概念は目まぐるしく変化していて、悪く言えば流されやすくて、
映画中で発するシーモアさんの言葉や行ってきた行動は、すごく単純明快で才能を活かすための行動であることがよくわかりました。一貫した気持ちは人を惹きつけるなあと思います。

お気に入りの話は緊張について、充実について、自分を守ることについて
他にもたくさんいい話が聞けます!

彼の環境は音楽に満ちていて、それが映画内で贅沢に使用されていて
普段クラシックを聴かない私もクラシックの美しさの魔法にかかったようでした。
なんてことのない一言のようだったバッハの女性的な旋律の話には興味をそそられたし、
鍵盤の一音一音の感覚をこんなに分かってみたいと思ったことはありませんでした。

イーサンホークのこの作品は彼自身と向き合うためでもあるし、彼が彼以外の人にも見て欲しいと思った映画でもあるから、シーモアさんへの尊敬や愛が画面から感じられるようで、
とても暖かく美しい映画でした。