櫻イミト

われらのナチの櫻イミトのレビュー・感想・評価

われらのナチ(1984年製作の映画)
3.0
ナチス最悪のプロパガンダ映画「ユダヤ人ジュース」(1940)の監督ファイト・ハーランの息子トーマスが反ナチ映画を制作した。その密着ドキュメント。原題「Notre Nazi:ノートル・ナチス」 。

戦時中ユダヤ人11000人殺害の責任者だった元ナチス将校アルフレッド・フィルバート(撮影時80歳)が1977年に釈放された。映画監督トーマス・ハーランは彼に新作映画「ワンドカナル(傷ついた運河)」の主役を依頼する。設定は「架空の元ナチス将校S博士が誘拐拉致され密室で尋問を受ける」というもの。貧しい生活をしていたフィルバートはこれを引き受け撮影が開始されるが、監督トーマスには別の目論見があった。実は撮影スタッフはホロコーストの遺族たちだったのだ。トーマスはカメラの前のフィルバートに質問を浴びせかけホロコーストの実際を暴き出していく。何に巻き込まれているのかわからないフィルバートはやがて収容所で亡くなった兄のことを語り涙を流す。監督スタッフたちは大量殺人戦犯への怒りと老人虐待の罪悪感で感情が分裂していく。。。

「ユダヤ人ジュース」を観たので関連作品として鑑賞。字幕がないため参考として流し見した。

映画「ワンドカナル」(※Filmarksには未登録)の企画内容は大変興味深いものだった。冒頭には本編も挿入される。

トーマス・ハーラン監督(1929年生)は、ファイト・ハーラン監督と二番目の妻だった女優ヒルデ・ケルバーとの間の息子。父親ファイトが「ユダヤ人ジュース」を監督し断罪されなかったことがトーマスを一生苦しめた。

※トーマスは左翼系戯曲家として活動しながらナチスの研究を続け、各国の抵抗運動の支援に力を入れた。2000年に小説「ローザ」で作家デビューし2010年に逝去(享年80歳)。翌年、彼の父親に対する手記がまとめられた「ファイト」(2011)が出版された。

映画「ワンドカナル」は1984に公開され大変な物議を醸した。主演フィルバートは新聞記者に『私はヒトラーに従ったのと同じように、ハーラン氏にも従った』と語った。

※このメイキングを作ったロバート・クレイマーは左翼系ドキュメンタリー監督。ヴェンダース監督「ことの次第」(1982)の脚本を共同執筆している。
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