ルサチマ

われらのナチのルサチマのレビュー・感想・評価

われらのナチ(1984年製作の映画)
5.0
クレイマーの最高傑作だ。
誰も自分のことなんて分からないから、クレイマーは被写体へ言葉を与えていき、クレイマーのカメラは殺人鬼の目を口を頭をこれ以上ないまでのクロースアップで切り取り、接続する。被写体の殺人犯はいよいよ狂う。
真なんてないというのが近代後の自我という概念の正体であるわけだが、この追い詰められた切迫の表情と身体の動きに理性の働く余地などほとんどゼロに近いわけで、ここに映画に映されるべき圧倒的リアルな被写体の力だと存在が誇示される。
言葉が身体を徹底的に破壊し、そして演出により身ぶりを閉じ込めていく。
この当たり前に行われるはずの映画の手法とその矛盾が露呈されたあと、ついに辿り着く映画の境地を見た。
視覚面に限らず、音も本当どうかしてる。ノイズの効果については今作において正確に使われているのかどうかまだ判断しかねる。
ただし音声面についていえば、監督の声が殺人鬼にダイアローグというよりもクロースアップの画面に響き渡るようなモノローグ的な音として届けられてる。
コレを見た人間はどんなドキュメンタリーもクレイマーの試みには到底及ばないと悟ってしまう気がする。つまりはドキュメンタリーであると同時にフィクションであるという両義性。
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