ルサチマさんの映画レビュー・感想・評価

ルサチマ

ルサチマ

静かに燃えて(2022年製作の映画)

4.1

このレビューはネタバレを含みます

傑作とは思わないが、リビングの部屋の壁に閉じ込められた世代を超えた物語を解きほぐしていくような語り口は確かに見応えがある。限られた撮影体制ゆえ、貧しい画面であるからこそ、映画の中心を担うリビングの空間>>続きを読む

肉体の悪魔(1986年製作の映画)

4.7

Blu-rayで再見。これはベロッキオの中でもかなり好きな偏愛作。

女課長の生下着 あなたを絞りたい(1994年製作の映画)

4.5

監督作とは違うが、井川作品でこんなにもあっけらかんと風通しのいい映画は珍しい気もするものの、最後の「イッツアラーイブ」の一言が空間に放たれる浮遊感に井川さんらしさを存分に感じつつ、揺れまくる移動撮影で>>続きを読む

すべての夜を思いだす(2022年製作の映画)

2.5

不在の眼差しを念頭に撮影された物語の中心点を欠いた最近の映画を見るたびに、『東京公園』とまでは言わないけど、60分以上もあるならせめて『明るい部屋』以上のことは求めたくもなる。東日本の震災を経て20年>>続きを読む

夜を走る(2021年製作の映画)

1.0

根本的に10年代以降の地方郊外の労働者を撮った日本の劇映画には胡散草さしか感じない。結局のところ郊外の諸問題を形式的なスタイルで描き、解り切ったものを見せるだけで、どれだけ物語性を展開させたところで白>>続きを読む

アルジェリア戦争!(2014年製作の映画)

4.6

アルジェリア戦争の兵役を逃れたストローブが晩年にこの2分の作品を撮ったという意味に強烈な批判精神を感じずにはいられない。

階級関係 -カフカ「アメリカ」より-(1984年製作の映画)

5.0

何度も見てるが、やはりストローブ=ユイレの市民階級と闘争という主題は前作『アン・ラシャシャン』から物語の説話性と密接にかかわり、今作で見事に到達した感覚を抱かせる。そしてそれは晩年に至るまで続くが、移>>続きを読む

リスクへの挑戦(2004年製作の映画)

4.7

二社の企業の商品開発にまつわるミーティングを記録しただけではあるが、この一つの商品が生産されるまでの対立と決定にいたる過程をこれほど端的に図示した映画はない。サラリーマン仕事をしている人間であれば誰も>>続きを読む

監獄の情景(2000年製作の映画)

4.8

ジャン・ジュネやブレッソン他、映画の中の監獄の囚人のイメージをモンタージュしつつ、監獄の中の光景が養護施設の撮影、そしてスーパーマーケットの光景と結び付けられる視点は相変わらず鋭い。
囚人たちの死や、
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静物(1997年製作の映画)

4.7

フランドル派の静物画を出発点とし、食品広告の写真を延々と撮影(解析)していく。広告の情報ではなく、広告のための素材をどのように撮影するかという極めて現実的というか事務的な段取りを踏まえていくのだが、そ>>続きを読む

労働者は工場を去って行く(1995年製作の映画)

4.8

リュミエールの「工場の出口」に始まり、工場の扉と労働者の関係を監獄と囚人に重ね合わせつつ、映画の中で描かれた工場と労働者、監獄と囚人の関係をこれまた数多の膨大な既成映像作品からコラージュする。
ソビエ
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ルーマニア革命ビデオグラム(ある革命のビデオグラム)(1992年製作の映画)

5.0

ルーマニア革命を記録したテレビ中継など、多くの既成映像素材のみを使い、ファロッキはそれらの順序を整理し、それらの映像が示すことのみをテロップで見せる。テレビ屋の実況中継が示す映像から、革命で乱れる市内>>続きを読む

In Order Not to Be Here(原題)(2002年製作の映画)

5.0

輸入ソフトにて。アメリカの郊外と思われる夜の路地を監視カメラの静謐な映像によって息を潜めて見守り続ける。冒頭からただならぬ気配を感じながらも決定的な何かは怒らぬまま、途中クロースアップで異質に捉えられ>>続きを読む

ヴェネツィアについて(2014年製作の映画)

5.0

再見。同一ショットに被さるテキストの朗読は絶えず途切れることなく読み上げられるが、画面上では一定時間の経過ごとに異なる時間帯の同ポジションの画面へと切り替わる。『コルネイユ=ブレヒト』で到達した光と(>>続きを読む

影たちの対話(2014年製作の映画)

4.7

画面の平面性と立体性を並列に提示する。男は画面下部の中央右寄りに配置され、男の上には大きな樹木が黒々と広がっていて奥行きは掴みづらい。他方で切り返される女は画面下部、左端に配置され、女の上にも樹木の枝>>続きを読む

ジャッカルとアラブ人(2012年製作の映画)

4.6

たった一つの室内空間で、女、オフボイスの権力者、女の前に立ち塞がる顔のない(フレームで切られた)男の足、反抗としてのハサミ、によってそれぞれの対立構造が描かれるという意味でカフカの原作通りに物語のニュ>>続きを読む

ある相続人(2011年製作の映画)

4.9

再見したら相当面白い。文学そのものについて取り組んだ映画の一本かと。冒頭の雑木林内でストローブと若い男が会話し合う手持ちの移動ショットにおいて、参照されるテキスト自体はあれど、ここでの二人のやり取りは>>続きを読む

おお至高の光(2009年製作の映画)

4.6

ストローブにしては珍しくビスタサイズの画面で、黒みのヴァレーズからのダンテ「神曲」の台本を手に読み上げる丘の上の男。途中、カメラは男の目線の先に広がるであろう山の稜線をパンで示すが、反復されるパンには>>続きを読む

ジョアシャン・ガッティ(2009年製作の映画)

4.1

ストローブがテキストを下敷きに自らの署名で語ろうとすることにやはり変化といえばいいのか、分裂といえばいいかわからない何かがある。

魔女 女だけで(2009年製作の映画)

4.5

寝そべる女と、丘の上に立つ女二人をロングで捉えた固定画面から始まる。ストローブ単体になって以降、人物のポジションとその視点の変容は繰り返し描かれているが、今作ではロングショットの中で人物が首から上を振>>続きを読む

ルーヴル美術館訪問(2004年製作の映画)

4.8

途中に挿入されるセーヌ川(手前に樹木が水平に並ぶため、水面はかすかに感じられる程度)の長回しは同一ポジションによる光の推移を克明に記録する。中盤以降メインで紹介されるドラクロワの描き込んだ色をどのよう>>続きを読む

辱められた人々(2003年製作の映画)

5.0

『労働者たち、農民たち』の後日談として山間の共同体に元パルチザンや地主代行が現れ、彼らから逃れるまでの物語が展開される。終盤に描かれる室内空間がとりわけ素晴らしい。室内空間では決して人物が同一フレーム>>続きを読む

ヒア&ゼア・こことよそ(1976年製作の映画)

5.0

再見。ドゥルーズが語っていたように「and」=「と」で異なるものを繋いでいくことの重要性が70年代ゴダールの到達した一つの回答だろう。他方でストローブについてはどちらかといえば「or」=「か」で異なる>>続きを読む

ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争(2023年製作の映画)

4.9

ムレが評した「ゴダールはピカソ的な作家だ」という言葉を想起しつつ、あらゆる引用が散りばめられつつ、絵画を映画にすることに拘った人の答えだったのかなという気がしている。図、素材、音、台紙といったものの関>>続きを読む

瞳をとじて(2023年製作の映画)

4.7

狂ってしまったかつての出演者を探す物語ではあるが、何か奇妙な違和感がある。映画的な解釈をしようとすれば、映画監督とかつての出演者が通じ合う場面として、海軍時代に学んだロープの結び方を共有し、若き二人を>>続きを読む

夜明けのすべて(2024年製作の映画)

3.9

死者に対する敬意があるようでいて、あくまで映画の中のイメージに置き換えてるだけじゃないか…。動かしようのないものを物語に取り込む覚悟は本当にあるのかという問いを立てれば、少なくともこの映画の中でそのよ>>続きを読む

ふたりの長距離ランナーの孤独(1966年製作の映画)

4.4

64年の東京オリンピックでのランナーに紛れ込んで並走した男が捉えられるまでを捉えたたった一つの映像を反復するというジェイコブス的な手法をこの時代に既に日本の記録映画の作家がやっていたことに驚愕。野田真>>続きを読む

見ての通り(物の見え方)(1986年製作の映画)

4.6

異なる2つのイメージの形式上の類似性、仕事道具と戦争で使用される武器、民間のものに紛れ込む戦争道具と戦争道具の中に紛れ込む民間のものを比較する形でモンタージュする。表面的なはたらきとあらゆるイメージの>>続きを読む

消せない火(燃え尽きない火焔)(1969年製作の映画)

5.0

学生時代に最も影響受けた映画の一つ。ファロッキ自身がカメラの前に立ち、ベトナムで使用されたナパーム弾の威力についての調書を読み上げ、「ナパームの火傷について見せようとすれば皆さんは目を瞑るだろう。映像>>続きを読む

最後に残るもの(2023年製作の映画)

4.7

恵比寿映像祭にて。ストラトマンは現代の女性作家で最も注目してる存在であると同時に蓮實以降の流れにある狭義の「アメリカ映画」とは異なる流れの(ストローブを経由したフェントらに連なる)アメリカの映画作家で>>続きを読む

ふつうの家(2000年製作の映画)

4.3

被差別部落に生まれ育った両親の話を幼い頃から聞いて育った監督が、家の中で部落問題について議論することを禁じるという一見『お早よう』的な小さな親への反逆の物語かと思いきや、そんな簡単な話ではない。子供心>>続きを読む

チーズとうじ虫(2005年製作の映画)

4.6

撮ることの倫理の思考を誘うという意味で佐藤真以降のドキュメンタリーで非常に貴重。この監督は撮影以上に生活を最上位に置いているのだろうし、監督の「撮影してると手伝えないね」の一言がこの映画そのものの成り>>続きを読む

叛軍No.4(1972年製作の映画)

5.0

『叛軍』シリーズ一挙上映にて。
「NO.1」と「NO.2」では意図的に小西誠が起こした叛軍事件の原因が語られていない。

「NO.1」では冒頭に新潟の裁判所を舞台にした記録が始まるということがかなり聞
>>続きを読む

時は止まりぬ(1959年製作の映画)

4.5

雪山に設計されたダムに加えて、何より教会が建っていることが、いかにも西洋の手の加え方だと思う。日本人はどうしても自然と調和する方向でしか思考できないというのが思想的に染み付いていて、それゆえに文明を持>>続きを読む

セインツ -約束の果て-(2013年製作の映画)

4.0

最近はあまり好きじゃない現代の映画を見直して何がハマらない要因なのか考えてるけど、ロウリーをはじめとして俺はやっぱ映画オタクの作るものに何も興味がないなというのは確信が持てた。

ショーイング・アップ(2023年製作の映画)

4.3

『ファースト・カウ』より描くものに好感が持てる。アーティストの肩書に甘えて日常生活での気配りのない者に対しての軽蔑がきちんと描き込まれている。芸術を生活(もしくは大文字の政治)と切り離すことのできない>>続きを読む

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