ボーカルの恋人ルーとデュオで活動する男性ドラマーで、キャンピングカーで生活しながら全米のライブハウスをドサ回りするルーベン・ストーン。しばしば音が聞えなくなることから医師の診断を受けたところ聴覚異常で回復は見込めないことを告げられた彼が、音楽家として致命的な状況に陥って自暴自棄になる様を描いたドラマ映画です。
第二次世界大戦の退役軍人がかつて隠した盗品を探し当てに欧州へ行くドキュメンタリで注目を集めたダリウス・マーダーが当初はドキュメンタリで企画した聴覚障害を患うドラマーの物語をフィクションとして映画化した作品で、出演決定後にドラムと手話を習得したリズ・アーメッド演じる物語が評価されて米国の各映画賞を席捲しました。
素晴らしいリズ・アーメッドの演技に見事に音をマネージする演出が応え、音を生業にする者から音が奪われる物語から普段では気を向けることのない聴覚障害の実態を知らせます。時間と共に失われていくもの。二度と取り戻せぬそれをしがむのでなく、失った自分を受け入れることだけが歩む道という残酷でも普遍な有り様を描く一作です。