冒頭でラジオから流れてくる天気予報では、曇り空にぼんやり光が差すことはあっても気温が上がることはないだろうと告げられる。たしかに画面に映る風景は終始そんな感じで、薄寒い空気が映画全体に立ち込めている。
たいていの映画には起承転結の構造があって、それがハッピーエンドであれバッドエンドであれ、何らかのオチがついたところで映画は終わる。一方、現実の人間の生活はたいていの場合、起も承も転もなくとめどなく続いていく。その途中で、人はいろんな選択を迫られもするし、ときには大なり小なり事件らしきことも起こるが、そこにはっきりとしたオチがつくことはなく、多くの場合ある日唐突に終わってしまうものらしい。
ケリー・ライカートのこの作品は、映画の終わりと同時に終わる起承転結の物語ではなく、映画が終わった後も続いていく生活そのものを撮ろうとしているように見える。まさにLife goes on(人生は続く)だ。
登場人物たちは多くの場合あまり元気がなく疲れている感じだが、元気がないなりにとてもリアルに生き生きと描かれている。そして生き生きとしたものを眺めているのは基本的に楽しいことであり、ケリー・ライカートの映画は(娯楽作品とは言い難いにも関わらず)とても楽しい。