空の落下地点

満月の夜の空の落下地点のレビュー・感想・評価

満月の夜(1984年製作の映画)
3.1
オクターヴの存在と、パリの一人暮らし住戸は同じ役割。困った時にいつでも逃げ込める。「この世で唯一確実なもの」、一方通行(道路標識に関しては純愛を表してる?)でも確実なんだ。彼女はいつでも自己完結している。世の中に対する不信の裏返しとして淡泊を装っているけれど、保険を掛けるのは繊細な人だけ。
レミが自分を愛さなくなったら、自動的にルイーズからも愛さなくなるはずでは?彼女の愛は反射じゃなかった。ちゃんと感情がある。肉体を与えすぎることを恐れている。

赤をほんの少しだけ差し色にして、「肉体の愛は私の一部でしかない」と言う。基本はモノトーンで、映画全体が統一されているけれど、オクターヴの家のソファと、カミーユのインナーの赤は主張が強い。
網の目のようなバッグは、人間関係においても換気は必要だということを教えてくれる。でも世の中には、レミのように換気を必要としない人種もいる。

自立は時間を独占すること。愛が時間に宿るものであるなら、自立との両立はかくも困難なのか。ルイーズは共有を恐れてる?
他人と暮らせば他人の為の自分になってしまう。自分が相手の為の自分になり、相手が自分の為の相手になるとしても、AIじゃないから納得できない。心を何かに変換して与え合うことはできても、心そのものを交換することはできないので、自分の心が誰かの為のものになったと錯覚してしまうと離人感が生まれて埋めようがない。私の心を貴方が使い、貴方の心を私が使います、ということにはならない。

永遠に冷めないポットは、この世に無い。皮肉にもオクターヴは、ルイーズがオクターヴを愛さないからこそルイーズを認識できるという。個性と孤独は不可分なのか。個性を貫こうとすると、愛の介入する余地が無くなる。時間と個性と心の所有権・指揮権を保ったまま、愛と付き合うことは出来ないだろうか。問題はぶん投げられたまま映画は終わる。
空の落下地点

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