ダイアン

ムーンライトのダイアンのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
黒人社会にある静的な生きづらさ、セクシャルマイノリティ。ヒューマンドラマの新しい舞台を感じさせる。長回しとインサート。連続した物語でありながらも、僕らが生きる日々の断片的な情景を掬い取る映像が心地よい。実際に眼に映るものは、そうだから。ガスヴァンサント作品を観ているような、今読んでいる『アメリカ死にかけ物語』の文体にも似ているような。

旧知の友人との再会、タイムマシンのよう。変わらないようで確実に変わっている、わかっているようでわからないけど、わかる。目線の下げ方や小さな仕草だけが、記憶をつなぐ。そんな感覚には、身に覚えがある。なぜか懐かしさがこみあげる。そんなか細い記憶だけが、切れ切れの人生で迷子になった僕たちをつなぐ、頼みの綱だ。

まさに、月灯りの映画だ。性的マイノリティの苦しみや貧困社会の実状とか、社会派と言ってはいけない。社会派と言ったその言葉によってこぼれ落ちる人生の刹那がある。淡い光のような人間の、儚くも凛として優しさのある光を、光そのものを撮ったんだと思う。
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