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トゥ・リエンのhumのレビュー・感想・評価

トゥ・リエン(1980年製作の映画)
4.7
たった10分間の絵本のようなアニメーション。とにかく一度見てほしい!!
たった1人で企画・脚本・作画を行っているフレデリック・バック。
これは宮崎駿が惚れるのも頷ける…。

内容は決して軽くないが全体的に幻想的で柔らかい雰囲気の為とても見やすい作品。
自然と人類との特異な関係性を描く内容もさることながら、何より素晴らしいのは絵の表現力。幻想的な色彩に彩られた『タッチ』『質感』が動き回る。
命が吹き込まれた絵画。
特に動物の表情やしぐさが本当に愛らしい。
物凄く濃い10分間になるはず。

神は万物を創造し最後に人間をつくった。

神は人間に自然界の一員として魚の力を与えた。海を自由に泳ぎ回れるように。
最初は満足だった人間も次第に不満になり泣き始める。

次に神は人間に自然界の獣の力を与えた。
大地を走り回れるように。
次第に人間は不満になり泣き始める。

次に神は人間に自然界の鳥の力を与えた。
空を自由に飛べるように。
次第に人間は不満になり泣き始める。

とうとう呆れた神は人間に自然界の力を何も与えなかった。
すると人間はどうしたか??
武器を作り火を起こし、無差別に、又快楽的に動物達を殺し、それを着飾ってみせた。
海を汚し、木を切り倒し、膨大なゴミを日夜生産・廃棄し、大地をコンクリートで埋め尽くし巨大な建造物を建て、その力の偉大さに彼らは笑っていた。
神は驚く。何故こんなことを。
この時の神(であろう人物)の驚く表情がなんとも言えない。物言わぬ自然界の声、或いは作者自身の嘆きを代弁するかのような。そして人間の表情。とんでもない蛮行を行っているのに何故か自信と希望に満ちているように見えた。

人間の強欲による支配は次第にエスカレートし、遂には神に対して槍を投げ殺してしまう…。

物語の展開と音楽が巧みに連動しているので、繊細さと力強さの抑揚がより映える。
自然界の寛容さ・美しさの描写にとにかく説得力があるので、その反動としてそれを破壊する人間の浅ましさ、強欲さが痛い程伝わってくる。

フレデリック・バックの作品には共通して
自然に対する深い愛情と慈愛の心を感じる。とても繊細で優しい人なんだと。
しかし同時に言いたくもない事を言わなくてはいけないという嘆きと強い憤りを感じる。

人や動物、自然、地球を心から愛したからこそ彼は生涯表現を続けたのだと勝手に思う。
彼が10分間に込めた気持ちを理解するにはまだ遠いけど、感情は揺さぶられました。

音楽・線のタッチの柔らかさ、色彩のグラデーションによる幻想的な雰囲気など子供も楽しめる、教育としても素晴らしい作品なんですが表現力がありすぎる故想像以上に怖いです。
小学校高学年あたりからなら大丈夫かと。

この作品をリスペクトする事自体とんでもない矛盾。
それでもフレデリックバック尊敬します。
ありがとう!
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