金宮さん

なっちゃんはまだ新宿の金宮さんのレビュー・感想・評価

なっちゃんはまだ新宿(2016年製作の映画)
4.0
『ひらいて』の首藤凛監督の初期自主制作映画ということで鑑賞。素晴らしかったです。

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女子高生主人公あきちゃんのほぼ初恋の相手である岡田には、なっちゃんという彼女がいた。無神経な岡田からなっちゃんの話をたくさん聞かされていたあきちゃんは、イマジナリーなっちゃんを具現化し一緒に仲良く暮らしはじめる。

その後なっちゃんと岡田は別れたようで、空いた枠にあきちゃんはすんなりおさまり、妄想なっちゃんは姿を消す。

ここまでが前半でその10年後が後半パート。岡田と結婚直前のあきちゃんは、なっちゃんのことなど忘れていたが、リアルなっちゃんとまさかの遭遇をする。このあたりから蓋をしていたもやもやが発露しはじめて、、といったまあヤバめなあらすじ。

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後半パートのあるシーンで、あきちゃんから「新宿を好きでいられる自分が好き」的な言及がある。これとタイトルの「新宿=なっちゃん」を組み合わせると「本来は嫉妬対象のなっちゃんと仲良くできる大人な自分」で自己肯定感を保っていたのではないか。

女子高生時代のあきちゃんには八方美人的な描写も多々あり、「なんでも許せる大人なあきちゃん」にアイデンティティーがあったのかもしれない。でも岡田と付き合うことでそれをなくしたようだ。早速、岡田の携帯をチェックする姿は自我や嫉妬を丸出ししている。もう少しバランスよく自我を出せればよかったのだけど。

タイトルの"まだ"が最大のポイントで、これは当然後半パート目線。なっちゃんとの再会により、歳を重ねたとて「大人なあきちゃん」が自己のアイデンティティーであることを思い出し、そしてそれを失くしつつあることに気づいてしまう。

あきちゃんはしかもこの自己肯定にあたっては、かなり潔癖ぽい。大人になったなっちゃんにも清廉さを求めている節があり、ライバルとして堕落を許さないところに狂気を感じる。

常に「私が許してあげてる仮想敵」が必要なこのアイデンティティーはとても不健全に感じるが、気持ちがまったくわからないわけでもない。

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上記ロジックの説得力として不可欠なのが、岡田と付き合う前のあきちゃんの大人っぷり。その描写が素晴らしく自然で、あきちゃんのおかげで超円滑な会話になっている様子を描いた教室での昼食シーンなんてお見事すぎる。このあたりは完全に監督の演技指導の手腕。

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『ひらいて』の主人公とあきちゃんは「マウントを取らずにいられない」という点でアプローチは違えど少し似ている。言語化するのが非常に難しい感情を描いてこその映像作家だとすると、まさにそれをやってのけている感じ。やはり、作家性満載の話題作監督の過去自主制作は打率が高い。『哀愁しんでれら』の渡部亮平監督『かしこい狗は、吠えずに笑う』とか。
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