めばち子

ゲット・アウトのめばち子のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
1.0
物語の中盤黒人青年が主人公に向けて放つ『出て行け!』の言葉。作品のタイトルでもあるこの『出て行け!』は誰に向けられた言葉なのか?
もちろん物語上主人公に向けられたものであるが、他に自身の肉体を内側から乗っ取っている白人に向けられてもいて、主人公に取り憑いて離れない母親へのトラウマへのものでもあることは明白だろう。ではラストでそれらは本当の意味で『出て行った』のだろうか⁈
本作は古典的な『ボディ・スナッチャー』モノの形式を借りながら、そこに人種差別の問題、とりわけ古くからある支配構造を成立させる上での白人の黒人に対する根拠なき優位性の主張を逆転させ、黒人のほうが白人より肉体的だけでなくあらゆる面で優れていると言う観点に立ち、そんな黒人を表面からではなく内側から支配することで、自分たちの優位性を保つと言うアイデアを導入することで斬新さを生んではいる。
だがそうであるなら、本作のラストで駆けつけたパトカーは主人公に対してどうあるべきだったのか?物語の序盤で主人公と恋人が鹿をはねた件での警察官とのやり取りから分かるように前フリは済ましている筈が、結果は…(それともその前フリさえも裏切ることが更なるどんでん返しを生むと考えたか⁈)。
また同じく前フリをした上で、結果主人公のトラウマはメイドを助けることで解消されたのか?(答えは否だろう)。
黒人であることでの差別や母親へのトラウマは物語を面白くするために機能はしているが、そもそもの問題への解答は置き去りのままただ『行かなければよかっただろ。』との主人公の友人が放つ陳腐な言葉で片付けてしまう。
ホラー映画の偉大なる先達ロメロ『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のラストで主人公は何故撃たれなければならなかったのか?そのことを考えれば、本作がいかに先述のアイデアと黒人であることやトラウマに依っただけで結果何も描いていない凡作であることが分かるだろう。
それとも『出て行け!』と言うタイトルはどうやっても解決されない問題へのただの願望に過ぎないのだろうか?だとしたらそれこそロメロのようにそのことへの絶望を描くべきではないか?
単なるホラー映画として片付けることの出来ないテーマを扱っているだけに、余計に本作の中途半端さに怒りを覚えてしまうのである。
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