あるてーきゅう至上主義者

夜は短し歩けよ乙女のあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.6
演技と映像と作画の大量得点で、脚本の大量失点をカバーした印象。厳密には脚本そのものは悪くないが、1つ致命的な欠点があり、それが最後までノイズになってしまっている。

話はわりとシンプルで、主人公の大学院生「私」がサークルの後輩の酒豪「黒髪の乙女」と付き合うための七転八倒を、京都を舞台にしたマジックリアリズム風味で描いた映画。冒頭の酒を飲む場面の描き方や、原作のぶっ飛んだ世界観を再現するために細部まで描かれた作画は緻密。キャラクターの描き分けもいいし、学園祭の描き方も大方の原作ファンを裏切らないだろう。

しかし、である。本作は古本市と学園祭と風邪の大流行を一夜の物語として描いている。原作では京都を季節ごとに語っているため、古本市は夏、学園祭は秋、風邪の大流行は冬となっているため飲み込みやすい。しかし映画では全て1日の出来事として描いているため、後半にいくに従って季節感の不明さや時制の不自然さが一気に露呈してしまう。

あれだけの様々な出来事を一晩の物語として描くのは詰め込みすぎで不自然だし、仮にそれに目をつぶっても、氷火燵で涼んだ数時間後に、キャラクターの誰もが長袖のコート姿なのはいかがかものか。


話そのものは十分に面白いし、原作の世界観を巧みに再現した絵づくりもいい。だからこそ、季節感も原作の通りに再現してほしかったな…。