Ark

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのArkのレビュー・感想・評価

4.3
2023-157
夫婦で田舎の一軒家に暮らすCとM。ある朝、Cが事故で亡くなってしまう。Mは深く悲しむが、Cはシーツを被ったまま病院から歩いて家まで戻ってくる。初めはひたすら家の中での動きを見守るだけだったが……。


心があたたかくなるストーリー。
突然死んでしまったCは病院の壁に現れた光に包まれた入口には入らず、Mと暮らした家に直行。そこで悲しむ彼女をひたすら眺めるが、時はどんどん流れていき、1人で時空を旅しながら妻が壁の中に残したメモを見たくてその土地に留まり続ける。

ネタバレあり↓

ゴーストは妻ではなく妻と暮らした家、その土地に憑いていて、メモを見たいがために留まり続ける。やがて家は取り壊され、隣にいたゴースト(監督が演じたらしい)は待ち人来ずで成仏し、家があった辺りは大都会の一部となる。ゴーストは屋上から身を投げ、開拓時代にタイムスリップする。一家は原住民に殺され、そのままじっと留まり続けたゴーストは、2人が家に内見に来るのを見る。回り回って2人がこの家で暮らし始めた頃に戻ってきたのだ。Mが怖がっていたポルターガイストはゴーストの仕業だった。過去のCは、歴史があるからと家を気に入っているため手放したくなかったが、怖がるMのために引越しを決意。しかし翌朝彼は死んでしまう。ゴースト2号は引っ越した彼女に付いていくが、ゴーストは彼女が残したメモをついに見ることが出来、やっと成仏する。

ループするのかと思いきや、ゴースト1号はメモを見て成仏、2号は妻について行ったので違う結末になりループはしないと思う。

全てのセリフに意味がある。4:3の比率で正方形に近い形のフレームに、引きで動きのないカメラ、セリフも少なく、とても静かな映画。Cが常にじーっと傍観しているように、観客も必然的に傍観者になる作りになっている。また、2人の名前は登場せず、あくまでCとMなので感情移入をしにくい。

パリピの男がかなりの尺を取って長い独白をするシーンがある。ここで彼は「人は自分が消えた後も覚えていてもらうために何かを残そうとする」「でも最終的には全て消えるのだから何をしたって無意味だ」といった結論に落ち着くのだが、本作で唯一の長ゼリフであるこの独白シーンこそ重要なのだと思う。しかし知らないオッサンの長ゼリフ、しかも哲学的な偏った思想を長々と語られては退屈である。

妻が残していったメモを見たくて壁をガジガジするゴーストがなんか可愛かった。健気……。

前半は長回しシーンが多い。チョコパイを食べるシーン、病院でMが去ってからCが起き上がるまでが超長かった。Mが食べたヴィーガンチョコパイはマズかったらしい。

本作のほとんどでシーツを被っていたケイシー・アフレック。シーツの中にいるのは本当に彼なのだろうか?という疑問を持ちつつ、ゴーストの丸っこくてゆっくりした動きが愛らしかった。
シーツの中は本当にケイシー・アフレックで、ただシーツを被っただけでは身体のラインが出てしまうので、フェルト帽とペチコートを着用することであのフォルムを作ったらしい。癇癪を起こしたかのように稀にポルターガイストを起こすけど、見た目がシーツを被った丸っこい人間って感じなので怖くない。光の加減でたまに体のシルエットが透けて見えている気がして、「あ、ちゃんと人間だ」って謎の安心感があった(笑)

変わった作品だけどメッセージ性のある作品。企画だけで撮影を始めたにしてはよく出来ているし、90分でここまで詰め込めたら上出来。シーツを被っていてケイシー・アフレックの姿が全然見れないのだけは勿体ないけど、こういう贅沢な使い方も大好き。
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