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私とあなたのオープンな関係のSのレビュー・感想・評価

3.0
 一見すると不器用な男女がいろいろあって最後に互いに向き直る、というよくある恋愛ドラマに思えるけど、実際には、相手を傷つけるかもしれないと「真剣な」付き合いをする他者と向き合えない臆病な男が自分のダメさに気づく成長物語だと思う。

 で、対女性の中で変化するのは男のほうだけで、女のほうにはそういう成長譚を十分に与えられていないのがこの映画のダメなところではなかろうか。
 貴方との数ヶ月は夢のようだったとよりを戻そうとするのがラストシーンだけど、回心したというよりただスペアの男との関係が崩れそうだから戻ってきただけのように見えてしまうのはそのせいだろう。つまり、このラストは、マーティンという男が回心するための最終試練として機能しているにすぎない挿話なのである。
 したがって「愛とはお互いに諦めないことだ」という都合のいい文言を挿入する監督に騙されてはいけない。元妻の流産と別れ、ガビからのオープンな関係の申し出などなど、すべてはマーティンというだらしない男を変えるためだけに仕組まれているのだから、どこにも「お互い」なんてないし、すくなくとも作中で諦めないと最後に決心できるようになるのは男のほうだけである。

 「お互い」を仮構するためにいろいろな工夫もある。二人の心情をあまり描かず、音楽PVみたいな映像表現で二人が「何をしているか」のほうを積極的に見せることで、観客が勝手に二人が互いにどう思っているのかを補えるように誘導しているところとか。
 あとは、ガビが中心になるエピソードではガビ自身よりも周りの男(マーティンの父親とかラリーとか)の話に焦点を当てていて、彼女がどう捉えたのかはあまり扱わない、というより男の話にすぐに動かされてマーティンに喧嘩をふっかける自動人形のようにガビという人物を扱っているような印象すら受ける。
 こういう、プロットの肝心な核の部分を観客の想像に投げるところや無意識な女性蔑視的表現に、とてももやもやする。ガビにも十分に気遣えていたなら良い映画になったんじゃないかな。
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