百合

オン・ザ・ミルキー・ロードの百合のレビュー・感想・評価

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冗長
クストリッツァ、はじめて見た。サライエヴォ出身の「ユーゴスラヴィア人」ということで、戦争が主題、というか戦争の中でもどうしようもなく続いていく生活、みたいなものがテーマなのかな。いやまあそりゃあCGはヒドかったけどそれは本人なりの諧謔なのか?と思っていたけど真剣に怒ってる人もいて判断し難いな。
前半は銃後の生活といった感じで本当に魅力的に生き生きと人々が描かれている。なにせ色彩が綺麗。二人の女性と主人公の三角関係が描かれるのだが、それが大して物語の駆動力にしようとされてないところがいい。イタリア人の嫁さんは綺麗だけどオレに好意を持ってくれてるあの子もいるし…といった具合で人によっちゃあ優柔不断でイライラする!と言われそうなおよそ展開のない時間が続くのだが、こういう‘劇的でなさ’こそ生活だと思う。それにやっぱり描き方が巧みなので楽しんで見られた。イタリア人女性とはミルクを介して繋がり、もう一人の女性とは血を通して繋がっている(輸血)。完璧に均整のとれた三角関係は、主人公を通した女性二人のレズビアン的繋がりのようにも見える(「彼女はわたしのものよ」)。
しかし村の襲撃によって彼らの蜜月はあっけなく終了する。生き残ったのは襲撃の原因であるイタリア人女性の方であり、主人公は彼女を助けて逃亡生活を始める。正直このパートは見ていて辛かった…中だるみが酷い。不要と思われるシーンが多い。落下と上昇というモチーフや水などここでも考察の余地はふんだんにあるのだがもう全然そんなことにはついていけずただ退屈してしまった。教養の不足。
地雷の爆発によって女性は死んでしまい、15年後の主人公が3つ目のパートである。イスラム教に帰依したらしい彼は石をひたすらに運び、女性を失った場所に敷き詰めるという作業をしている。広大な岩場を超俯瞰でとらえて終了。もうなんかとにかくあんな映像を見せられたらなんとなく心はジーンとするしかないなという感じだった…迫力の暴力。15年間、喪った愛おしい女性を思って墓を作り続けていたのだ。
動物は当たり前だが予期せぬ動きをするので、好んで撮る監督は多い。クストリッツァも動物を大量に撮っているが、主人公の相棒たちを残してその他の動物には人称性が与えられていない。まさに‘主人公とその他大勢’という感じで、その他大勢がバンバン殺されていくあたりたしかに寓意的な…動物が理不尽に大量に殺されていく描写に怒ってる人がわりと多いようだけど、これが現実でしょう?と言わんばかり。
そのなかで蛇がやっぱり気になったのだが、蛇といえばキリスト教ではイブを唆した悪魔的な存在で、イスラム教では地獄を腹に内包してるファラクという生き物らしい。とりあえずいいようにはとらえられていないようだが…それが牛乳に浸かるシーンを主人公は「奇跡だ」と言う。わからん。宗教についての知識と感性がないとわからんのだろうなあ。こういうモチーフに満ちた作品を見るのは楽しいが無力感がすごい。
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