MotokiA

オン・ザ・ミルキー・ロードのMotokiAのレビュー・感想・評価

4.0
いまいちかな、とか思ってたけど、書きはじめたら色々感想出てきた…

※蛇足を最初に。主人公が熟男熟女なのはまあツッコミどころなのかも。牛乳屋の娘がネジ飛び気味だけどセクシーで素敵。以下真面目に…

クストリッツァの、故郷、結婚、戦争、動物、音楽…といったお馴染みのモチーフが健在。『黒猫・白猫』のときのような衝撃はなかったものの楽しめる映画だった。あの喧騒、粗雑、熱狂と隣合わせの日常は日本の文化にないものだから、そのエキゾチシズムはぞくぞくする。肥えたシワくちゃの婆さんが銃ぶっ放すのは笑ってしまう。(日本的な見方・感じ方・振舞い方もまた、異文化圏の人にこれに似た驚きや憧憬の感情を抱かせているのかなとか、自分にそういったものを描くことができるかな…などとしばしば思う。)

空撮は流行りのドローンだろうか、景観に圧倒される場面も多かった。
そして動物たちの演技がすごかった。鳥賢すぎ、爆音の中で踊り狂う人たちの中でもあまりに大人しくしてるから、作り物かと思った。ロバもめちゃめちゃ賢い。蛇のサイズ感はなかなかツッコミ所だったが。

あえてチープな特殊効果や合成は冒頭の「ファンタジー」という表現に即してありなのではないかと思った。悲劇の物語を喜劇、ファンタジーとして語るならゴッリゴリのCG合成はいらないのかもしれない。でも地雷のシーンとかどうやって撮ったんだろう…

劇中ではコミカルに描かれている、「戦争が日常にある人たち」の冷静さも、冷静でいられるという狂気も、想像でしか理解できないけど怖さを感じる。ガサツだけど生き生きした故郷の人たちの美しい日常や結婚という晴れ舞台、それらを一瞬でぶち壊す暴力と炎。それでもボロボロになりながらの逃避を絶望一辺倒で描かないところが素敵だった。

終盤やや冗長の感はあった。もう少しまとめてもよかったのかもと思ったが、トレーラーにもあった洞窟からインコが舞い、ロバが駆けて行くカットは本当に美しかったし、最後のカットもそこに持っていきたい意思を感じた。羊飼いの男が言った「お前が死んだら、誰があの娘を思い出してやるんだ!」という言葉は、もう誰にも思い出されることはない暴力の犠牲になった無数の人たちを思った言葉だったのだろうか。主人公が残りの人生で自らに課した行動は希望や救いなのか、贖罪なのか。

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