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カメラになった男 写真家 中平卓馬のnuxのレビュー・感想・評価

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東京工芸大学で行われた、監督の小原先生と加瀬亮さんのトークセッション付きイベントにて鑑賞。正直に白状すると、生の加瀬亮さんを拝見したくて伺ったゆえ、中平卓馬さんどころか写真業界に関する見識ゼロの完全素人なのに参加してしまったが、予想に反して90分いろんなことを考えながら楽しめた。なんならトークセッションもいったん「うわー本物の加瀬亮さん格好良い…」という感情を横に置いといて、素直にお2人の話に聞き入るほどこの作品自体に興味を持てた。そして家に帰ってWikipediaで調べたら中平卓馬さんはなんと私と同じ大学を卒業した先輩だった。あの一点に突き抜ける純粋な感じ、記憶障害の背景がもちろんあるとは思うけど、あの大学には似たものを彷彿とさせる感じの方がよくいたので、きっと中平さんも元々の魂レベルであの要素があったのではと勝手にしっくりきた。

私たちは生まれてからどんどん知識と経験と記憶を増やして、それに伴ってより多くのことが見えるようになっていると思って生きてしまいがちなんだけど、実は逆に脳内に蓄積されるものが増えれば増えるほどそれにがんじがらめになって何かが見えなくなっていく側面もあるんだよなと思わされる90分。つい「奇人」という言葉がパッと浮かぶようなエキセントリックさを見せてくる中平さんの姿は、都内で同じ電車に居合わせたら絶対ギョッとしちゃいそうな異質さがあるんだけど、彼の姿を見続けていると、無意識かつ純粋に他者や周囲の空気といったものを完全に無視しているその姿の一貫性に、絶対に私がどんなに頑張っても今後得られないものを感じてその尊さと格好良さが羨ましくなる。小原先生が仰っていた「剥き身の人間」が非常にしっくりくる芸術家だった。「人間の自意識とは」、という考えても答えのないことを反芻して脳が熱くなりながら夜道を歩いて帰った。

なかなか映画館で上映されることも、配信されることもないような貴重な作品をこうやって大学という機関がカジュアルに一般市民に紹介してくれるのって本当に良いなと思う。東京工芸大学さんありがとう。
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