まりえ

大和(カリフォルニア)のまりえのレビュー・感想・評価

大和(カリフォルニア)(2016年製作の映画)
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仲良くなるとプリクラを撮る女子たち、私には理解できない


「姿の見えないアメリカ」はヒロイン・サクラを不安定にさせていた。ひたすら暴言を吐き、喧嘩に明け暮れ、周囲にイライラをぶつける彼女は自分が何に対してイライラしているのかわかっていない。わかっていないからこそ、短気な行動に走り、激しく不安定な暴力性を持っている。しかし、わからないのは無理もない。厚木基地は他の基地に比べて土地が広く、米兵が外を出歩くことはほとんどない。「姿の見えないアメリカ」は彼女に対して「騒音」でしか存在を示さないのである。そんな近くて遠い他者であるアメリカに憧れ、アメリカで生まれたラップの力を借りて自分の存在を確かめようとするが、不安とイライラの正体がわからない故に、上手くいかない。そのとき、アメリカ育ちのレイが彼女の前に現れる。近くて遠い他者であったアメリカが、自分の感じていた不安とイライラの正体が、彼女に近づいてくる。徐々に浮き彫りになっていく不安の正体に、抵抗するサクラ。しかし彼女はレイとの関係性の中でその不安を受け入れ、自分を語る言葉を手に入れることができたのだ。
 共通の趣味をもつ少女たちが打ち解けあい、喧嘩をし、仲直りをする、表面上のストーリーこそありきたりではあるが、ヒロインの内面のストーリーは決してありきたりではなかった。さらに、何が不安であるかもわからず、政治的な思想を一切持っていないようなヒロインが、日本の現在の姿とシンクロしていく。「ヒップホップはコピーじゃなくてサンプリング」「ラップを披露できないのはラップができないからだ」「うちの家族のことを利用している」このセリフはまるで、日本とアメリカの関係に対するものだ。大きな世界の問題が、政治的な思考を持たないような若者同士の小さな世界でも自然に発生している。国家は個人の集合体である。日本が今抱える不安をわけもわからず背負ってしまったサクラは、自分の言葉を持つことができた。いま日本に必要なことは、個人個人が自分の頭で考える事、自分の言葉を持つことであるということを強く実感する映画であった。
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