パワードケムラー

ブライトのパワードケムラーのレビュー・感想・評価

ブライト(2017年製作の映画)
5.0
 アメリカの人種問題をファンタジーというわかりやすい眼差しを通して描いた傑作。「これは差別ではない。科学的な話だ」といってオークを差別するくだりは他人事とは思えない。オークが事件現場にいたら問答無用で撃たれるという部分はまさしくBLMだ。

 他にも高級住宅街に住むエルフ(白人上流階級)やオークの犯罪者を見て「お前の親戚か?」と主人公に突っかかってくる人間の警官たち(これは黒人警官が採用し始めたられた頃に実際にあった話であり、人種問題を描かせたら右に出る者がいないスパイク・リー監督作品『ブラッククラウンズマン』でも「このカエル面はお前の親戚か?」という同様の差別発言がある)。警官になった途端、同胞を裏切ったと言われる主人公。これはアメリカそのものだ。

 そこに人生を一発逆転させるかもしれない魔法の杖が転がり込んできたことで、皆がそれを奪い合う姿には、差別される側の悲痛な願いと差別する側の既得権益を守りたいという醜さが垣間見えた。

 現代とファンタジーのミックスでは『2分の1の魔法』が挙げられるが、あれが「魔法が失われる世界での家族愛」を描いたとすれば、今作はそこからさらに踏み込んで「アメリカンドリームという幻想に近しい魔法が失われた現実」を描いた作品だと言えよう。そこからさらに深い社会問題へと切り込んだ続編に期待したい。