百合

シェイプ・オブ・ウォーターの百合のレビュー・感想・評価

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お伽話

方々で言われているように脚本としてはヌルッとしすぎてて何も言えないというか。お伽話ですよね。最初から最後の直前まで読める。まあそこで勝負する作品ではないのでしょう。
ビジュアルはひたすらに綺麗でした。暗い画面なんだけど輝いているのが不思議。テレビ画面で見たらこの感覚は再現できないと思うので、やはりスクリーンで見るのがいい。イライザの部屋や街のつくり、露骨に映すわけでもないのに素敵に違いないと思わせるのが巧み。あと空気の質感も良かったです。温くて甘い湿度の気配というか…
「彼を助けなければ私達も人間でなくなる」というセリフもなんというか反差別の正解というところで目覚ましいものでも…黒人女性、高齢のゲイ男性、失声症の女性という‘弱きもの’の連帯というのもまぁまぁという感じでした。ただ鼻に付く感じでなかったのはよかったな。マイノリティへの視線が露骨な作品が最近多いですがここの上品さはさすがと言えるかもしれない。
ストリックランドという名前はモーム『月と六ペンス』に出てくる妻子を捨てた粗暴な芸術家の名前なんですよね。あの粗暴さはたしかに共通しているなと。製作者の意図はわかりませんが。
アカデミー賞獲りましたが結局毎回あんまりしっくりこないんですよね作品賞。今回に限っては、なんというか、遠景の愛を信じることで全てを包んでしまうのってまあもうそうですよねとしか言えなくないですか?「イライザ達に愛があったことはたしかだ」って、それはとても美しいことだし救われることでもあるんだけど、でもなんか、だからハッピーエンドなんだ的に締めてしまうのって個人的にはしっくりきません。それでもどうしようもなく苦しかったり憎かったりすることが消えるわけではありませんから。だから「あなたと私は違うの」と雨の中で泣くシーンこそ今作品の絶頂だったと思います。住む世界が異なる者は結局‘一緒’にはなれないんですよ、いくら愛があっても。どうしても乗り越えられない壁を誠実に描き出したことにこのシーンの価値はあり、実質のラストだと考えます。水中で、靴が脱げたイライザが抱擁しているシーンはそれこそお伽の国の情景ですからね。
あと地味なところですが同僚の黒人女性と楽しそうに話してるシーンが多くてよかったです。案外会話ってあんなもんですよね。なんとなく非言語のメッセージが伝わっていれば楽しいんですよね友達同士って。
デルトロ監督おめでとうございました。
百合

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