Ogichan

シェイプ・オブ・ウォーターのOgichanのレビュー・感想・評価

5.0
見ている間に他のことを考える余裕がなく、次に何が起こるのかと世界観に没頭できた。二人のことを案じて心拍数は上がりっ放しだし、終わった後は本当に泳いだかのような疲労感があった。

観ている間、わたしが息を飲んだり口元を覆ったり、さぞ隣の人はうるさかったと思う。

声を出して言葉を喋れないマイノリティの女性が同じく声を出せない半魚人と手話やジェスチャー、音楽を媒介にして心を通わせる姿が美しく、そして、彼女の声が唯一聴けたシーンが「彼には私がどんなに彼を愛してるかわからない」と心を通わせてもなお生まれる孤独を歌に乗せて叫ぶシーンというのが切なくとても印象的だった。

また、結ばれてから主人公が赤を身につけるようになるのが、ブルーの画面で映えて彼女の心の高揚と重なった。でも、終わってから思うと血がたくさん流れるラストを暗示していたようにも思えてしまう。

水の中で重いものは下に沈んでしまう。うまく表現できないが、それがこの映画の世界観の場合は支配だったり権力だったりして、最終的に残れるものが愛、違いを恐れないことなのかなあと思った。まともさを目指す社会に呑まれた敵役も、それなりに劣等感や焦りのようなものを抱えていたのかなと思うとなんとも言えない気持ちになるけど。

失敗をしないのがまともな男だと上司に言われる敵役、人生は失敗の積み重ねに過ぎないというメッセージ入りのカレンダーを部屋に持つ主人公。完全ではないことの美しさが肯定される映画だと感じた。

最後はパンズラビリンスと同じくいろいろな解釈ができそうだけど、深く通じ合えない悲しみを抱えていた彼女が水の中で彼と「一緒」になれたのだとしたらハッピーエンドだと思う。

追記
観終わってしばらくいろいろ考えていたんだけど、童話の人魚姫が地上に上がるときに声をなくしてしまったように、声をなくしている主人公にとって地上での生活は仮の姿だったのかも、、なんて解釈もしてしまいました。
Ogichan

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