秋

シェイプ・オブ・ウォーターの秋のレビュー・感想・評価

5.0
特別美しいわけでもない顔、周りから浮かない無難な服、意思でどうにかすることのできない欠陥、心をすり減らしながらどうにか縋り付く普通の暮らし、せめてもの武器として美しい靴を選ぶ。縮こまりながらエレベーターに乗り込む姿も、誰もいない廊下でこっそりステップを踏んでみるときの微笑みも、自己投影してしまうには充分で、イライザの一挙手一投足に胸が詰まった。
体や心の歪さも、肌の色も生まれも性別も、わたしたちのアイデンティティとは全く関係のないことであって、それらは一切無視していいはずなのにそれを忘れて繰り広げられる会話は話せば話すほど不透明になっていく。繰り返される"あなた、わたし、一緒"の短い手話。あなたを通してすべてがわたしになる体験。すべてを受け入れる過程で起こる許し。憎んだり妬んだり、誰もが悲しく誰もが滑稽で誰もが神聖。すべて飲み込んで静かにうねる水の中にふたりで帰る。傷だと思っていた部分がひらひら開いて空気を取り入れる。凹んだ部分に水が流れ込む。愛のなかではもう武装する必要がなくなる。水の中で、ただ一切を通過する。生きていけるかどうかはまた全然違う問題だけど、見る前と見た後は確実になにかが変わった。
それにしても私は水の中で抱き合うモチーフにめっぽう弱いらしい。予告を見るだけで目から水が出てくる体にされてしまった。
ただ、あんな間抜けなモザイクで画面を汚すくらいだったらなにもせずにR18で公開してほしい。
秋