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彼女の人生は間違いじゃないのkazuのレビュー・感想・評価

4.3
福島と東京を舞台に、デリヘルをしながら懸命に生きる主人公みゆきの姿に心を動かされた。瀧内公美の体当たり演技は凄かった。脱ぎっぷりも凄かったし、なにより美しかった。

主人公を取り巻く人間関係もしっかり描かれていた。父親は、震災の影響で仕事をなくし保証金をパチンコに費やし、家ではお酒を飲む生活。昔付き合っていた彼氏は主人公に釣り合うようなカッコイイ男性ではないところが、彼女の人生のうまくいってなさを物語っている気がする。

デリヘル事務所で働いている高良健吾も、きちんとしたポリシーを持つ人間として描かれていた。デリヘル事務員の仕事は、暴力を振るうお客から女の子を守ること。ちゃんと一つの仕事として、働いているところがいいなと思った。「俺、この仕事好きなんだよな」というセリフからも彼がデリヘル事務員の仕事が好きなんだということが伝わってきた。

後半、デリヘルで働く女の子が1人飛び降り自殺したというエピソードが入る。その事件があってから、事務所の窓は少ししか開かないように変えられている。同じように飛び降り自殺することを防ぐためだ。みゆきはその窓から下を覗く。そこには死が潜んでいる。確実に。でもみゆきは死ぬことを選ばない。例え、つらい現実の中で生きているとしても。

何回も出てくる食事の風景。母は死んでいるから、父親と二人暮らし。殺風景な食事ではあるけれど、つつましく小さな楽しみを持ちながら暮らしている父と娘の姿が感じられた。ご飯とお味噌汁とおかずが何品。僕は見ていて美味しそうだなと感じた。毎晩ビールを呑む父親の姿は、生きているとことを噛み締めてるようにも見えた。

夕焼けをバックに子どもと二人でキャッチボールしているところとかを見ると、そんなに悪くない父親のような気がする。

悪いのは原発の事故だ。東日本大震災や津波は自然災害だけど、福島の事故は人災だ。仕事が奪われ、住む場所が奪われ、人生を奪われたのは、その人たちのせいではない。狂ったものはなかなか元には戻らない。

人は生まれる場所を選べない。故郷はその人にとって一つだ。そこを奪われたら人はどうやって生きるのか?

福島を生きる閉塞的な現状を、丁寧に切り取った映画である。

福島をしっかり描くことを土台に、その上に瀧内公美演じるみゆきの女性が生きる物語が、上手に乗っかっているように思えた。
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