ベタレイヤーテール

路傍の石のベタレイヤーテールのレビュー・感想・評価

路傍の石(1964年製作の映画)
3.8
1964年(昭和39年)版。傑作の児童文学である原作とだいぶ変えてはいるが良い。明治38年の学校や社会の様子が(多分)リアルに描かれていて(武士社会からの名残もまだ多かったり日露戦争の真っ只中だったり社会構造が大変革中だったり)興味深い。強い意志はありながらも人には強く出れない賢くて優しい吾一と、彼を理解してくれる人々、理解しないがそれなりに事情ある人々がよく描かれている。この時代の邦画にしてはとても落ち着きつつも構成も良く見応えがある。どの役者の芝居もビックリするほど自然である。この1964年版の吾一役は、なんと声優で有名な池田秀一氏の子役時代である。

原作で最も好きなシーンは以下なのだが、アレンジされてはいるが、なかなか良かった。以下原作を概説。他にも多々ぐっとくるシーンはある…。

友達に乗せられて度胸試しで汽車に轢かれる寸前まで頑張るということを行い、ギリギリ助かったが大ごとになり、先生にこっぴどく怒られるかと思ったら、先生は言った。
 貧しくて中学に行けないからやったんじゃないか?と……。

 吾一は、本当はそうではないのだが、うんと言ってしまう。しかし先生は、そんなことでは大きな人間になれないぞ、お前は自分の名前のことを考えたことがあるのか、と突然吾一の名前について熱っぽく語り始める。

「おまえの名前は、おまえのおとっつぁんがつけたのか、ほかの人がつけたのか知らないが、とにかく、もっと深い意味が含まれているのだ。そういう立派な名前を持っているものは、その名前を、立派に生かしていくようでなくっては、名前に対して申し訳ないではないか。」

「吾一というのはね、我はひとりなり、我はこの世にひとりしかいないという意味だ。」

「死ぬことはなぁ、おじいさんか、おばあさんに任せておけば良いのだ。人生は死ぬことじゃあない。生きることだ。たった一人しかいない自分を、たった一度しかない一生を、人間、本当に生かさなかったら、生まれてきた甲斐がないじゃあないか。」

「お前ってものは世界に一人しかいないんだからな、いいか、このことは忘れるんじゃないぞ」

吾一は、ただただ黙って聞いていることしかできなかった。

路傍の石・山本有三著