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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のmatsushiのレビュー・感想・評価

4.4
アメリカの社会問題というブラックな題材を、ビビッドでカラフルな色調に加え、6歳の少女の視点で描き、深刻な社会問題を映画というフィクションで消化させない、"映画"を変革しえるマジカルでディープな傑作。

一言で言うと映画の概念をぶっ壊される作品。「わー、カラフルでポップな可愛い作品っぽい!見てみよ!」と言う考えで鑑賞してしまうと、鑑賞後必ず後悔します。ただ、これは映画を知っている人でも賛否は必ず別れるでしょう。

フロリダディズニーリゾート周辺における社会問題である、安モーテルに住み着く貧困層や、貧困層における親子の教育、経済、環境面など、アメリカのそれはもちろん、世界全体の社会問題をも描いています。これだけ聞くとなんだか暗くて退屈そう、という意見が出るかもしれませんが、そんな作品では決してありません。というのもこの作品、ビジュアル面ではポップなビビッドカラーが目立ち、加えて6歳の少女ムーニーの視点で描かれているため、貧困層の生活、それ自体が真新しく、冒険のような描かれ方をしているのです。
要するに、自分はこのブラックな社会問題を題材としつつも、こんなにも明るくポップで楽しい作品に仕上げるその気概が秀逸すぎて開いた口がふさがりませんでした。

また、キャスティング面でも型破りなものとなっています。今回の重要人物である、ムーニーの母親ヘイリーもインスタグラムで見つけたほぼ素人同然のキャスト、他にも多くのキャストが素人同然の人々が使われています。だがそれだからこそ、リアリティが高く、ナチュラルな作品となったのだろうと感じました。

淡々と少女たちの日常を描く本作は、これぞストーリーというな展開、つまり明白な起承転結は存在しません。そして、ハッピーエンドもバッドエンドも存在しません。この宣伝の言葉通り、マジカルエンドというものが描かれています。このマジカルエンドに対して賛否両論が別れるのだと思います。
映画というものだけでなく、ストーリーを持つ表現作品というものは、「ある人物が存在し、その人物が成長や堕落といった変化を起こし、ある問題を解決するもの」というのが一般的でしょう。自分も知らぬ間にこれを前提として映画を今まで見てきました。本作を見るまでは。詳しいことは言えませんが、前述したような現実には決して解決し得ない社会的問題を我々観客にずっしりと深く突き刺し、想像することを促すラストとなっています。自分は1週間ほどこの作品のことで頭がいっぱいになりました。ラストが従来のフィクション的なものとなっていたならば、この作品はこんなにも絶賛もしくは批判されなかったでしょうし、加えて我々観客がこの深刻な社会的問題について深く考えることもなかったと思います。だからこそ自分は本作のラストが大好きなのです。
結末は必ず疑問が残るかと思います。自分もそうでした。そしてそれを「欠点だ」「こんなの逃げだ」、「説明不足すぎる」などと批判するのは簡単です。しかし、そのように安易に批判するのではなく、そのラストについて熟考し、調べ、自分なりの答えにたどり着くこと、またこの社会問題を"フィクション"として終わらせないことが本作を作った監督の願いであり、意図であるのだと考えています。

本作は群を抜いて自分に影響を与えた映画の一つになりました。深刻なテーマに対するポップな演出。こんなにも正反対な事象をここまで綺麗に収める作品はこれまで見たことありません。本当に秀逸で型破りで奥深く美しい作品でした。
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