あお

顔たち、ところどころのあおのレビュー・感想・評価

顔たち、ところどころ(2017年製作の映画)
5.0
今までで一番好きな映画かもしれない。

私の知っている「ドキュメンタリー」ではなかった。現実なのに極めてファンタジーに近い。現実は小説より美しい(※奇ではなく)…心底そう思わされた。本当にノンフィクションなのか疑ってしまうほど(仮にフィクションだとしても、それはそれですごい)。
87歳と33歳、アーティストとしても一人の人間としても対等な2人を見て、アーノルド・ローベルの絵本「ふたりはともだち」に通ずるものがある気がした。あの世界観はがまくんとかえるくんにしか生み出せないと思ってた。

54歳差という対比に加えて、目が見えなくなっていくアニエスと決してサングラスをはずさないJRという縦軸があるのは偶然なのか故意なのか…この対比と縦軸の存在だけでもう強い。
構成も良くて、特に入り方は天才的ではないか…?考えてもなかなか思いつかないのでは。
映像と写真(静止画)が入り混ざるのだけど、それが良いリズムになっているし、次の場面への移り方も心地良い。進行はゆっくりだけど実はカットごとのテンポは少し速い、だから退屈することがない。

その上で、すべてがおしゃれ。鼻につく洒落っ気ではなくて、ナチュラルというかオーガニックというか。
「旅」という要素に、絵画的でやわらかい映像、シンプルだけど情緒ある音楽、率直かつ詩的な言葉(翻訳者=寺尾次郎さんが素晴らしいのかな)でほっこりもするし幸せな気持ちにもなるし、哲学的な問いかけもあるし、2人のユーモアで笑えもする。

カメラをまわすだけでこんな素晴らしい映像が撮れるものなんだろうか。
どのカットも構図が美しい。画角を決めている人とカメラを回した人は何者だろう。

登場する人々も皆愛おしい。素人とは思えないほど生き生きしている。フランス人の気質もあるだろうが、2人が人々との交流を楽しんでいるからこそ引き出せているのかな。
2人の生きている時間に幅があることで、旅先で出会う人々の物語が入り込む余地が生まれているように思う。

好きなシーンはたくさんあるけど、あえて言うならば螺旋階段を昇るシーン、ルーブル美術館のシーン、JRの祖母に会いに行くシーンが良かった。
「祖母は宝物よ」

どこまでがその時の言葉で、どこからが台本のあるアテレコなのだろう。
まあどっちにしても素敵だからいいか。

オープニングとエンディングのイラストデザインがかわいい。
あお

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