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カメラを止めるな!のKYのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
3.9
上田慎一郎監督作。

ENBUゼミナールのワークショップから生まれた低予算映画。日本映画祭みたいな日本のエンターテインメント映画を何作か上映する企画でようやく鑑賞(ちなみに異国でも会場はウケてた)。ヒットの要因を考えてみた。

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前半で伏線の風呂敷広げて後半で回収しまくるタイプのシチュエーションコメディって『いかに伏線を伏線だとバレずに広げるか』と『いかに飽きさせずに伏線を広げるか』の2つが重要だ。

その意味で今作が話題になりすぎて『ネタバレは絶対ダメな作品』という評判を受けて観た自分は、本当の意味での面白さを味わえなかった。

前半のワンカットゾンビシーンを『ひたすら伏線広げてるシーン』として見てしまった(その意味で公開から2週以内とかに見た人が羨ましい)。

しかし『飽きさせずに伏線を広げる』点に関しては完全に成功してる作品だった。そしてここがこの作品の最も大きなポイントなのだろう。

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ヒットの要因を「SNSでの口コミが〜」とか「今の観客は体験重視。大爆笑の劇場を味わいに〜」と片付けても良いけど、個人的に思ったのは今作と『君の名は』の共通点だ。

偶然なのか分からないが、とにかく今作は『君の名は』同様、現代的な観客を「飽きさせず」「お得感を味あわせる』作りの作品になっていた。

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昨今この手のウェルメイド作品が流行らなかったのって、前半でゆっくり伏線張りまくる情報速度の遅さに観客が耐えられなかった点にある。

スマホやSNSのタイムラインを読む速度により観客の情報処理速度が上がり、今はダラダラ見せるテレビよりも間をズタズタに切ったタイトな人気ユーチューバー動画の方が受け入れられている。

2年前に流行った『君の名は』も恋愛の積み上げという伏線をほぼRADWIMPSのMV的な表現で省略した(そういえば「ララランド」もそうだったな)。

その意味で今作と同じ【生放送ドタバタシチュエーションコメディ】でも、三谷幸喜の『ラジオの時間』を今やっても流行らないはずだ。伏線を張る前半が緩すぎる。

飽きてしまったら伏線として頭に残らないので回収する場面が出てきても観客がスルーしてしまう事すらある。だが今作は『ワンカット長回し』にする事で伏線を広げる間、常に観客に緊張感を与えて見せる事に成功していた。

ユーチューバー的な『間を切りまくる編集』と『ロングテイク』は一見真逆だが、両者は『見る側に他の事を考える時間を与えない』という点では共通している。

正直30分ワンカットの前半はあんまり面白くなかったが、ワンカットなので集中して見れてしまった。「面白くなくても飽きさせない」というか「面白くなくても止まるまで集中して見ざるを得ない」というか。そしてそれが伏線を広げる際にめちゃくちゃ重要だ。

作品自体は演劇的な内容だけど、観客に飽きさせないためのアイデアを『面白さ』ではなく『撮影技法』に依存するという点で、まさに映画だからこそできたものなのも凄い。

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構成に関しても同様だ。昨今の観客は一直線に進んでいく話はもたない。短いYouTube動画を複数見慣れてる人々が1時間同じ展開の積み上げるのは、だるいというかお得感を感じられない。

先ほど『君の名は』のヒットの要因に伏線の省略を挙げたが、同時にあの作品は構成を転調させる事で観客の飽きを解消させていた。『身体入れ替わり系』物語から『ディザスター系』へ。起承1承2転結の物語において、承1と承2を異なるジャンルにする事でお得感を味あわせていた。

今作も同様で一つの映画の中で『ゾンビサバイバル系』から『がんばれ!ベアーズ系』に転調させている。しかも両方ともみんなが大好きな展開。

意図的にヒットを作った『君の名は』と違い、今作は偶然かもしれないが構成面でも今の観客の【お得感を味わいたい気持ち】にフィットしていた。

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ここからは個人的な好きだった所と嫌いだった所。

エンドロールで『劇中劇の劇中劇の劇中劇』を見せる所が凄い良かった。今作の多重構造をさらに上から重ねる所が良いし、そこに監督の映画制作愛みたいなものが感じ取れて良かった。

『ラジオの時間』におけるトラック運転手のポジションにあたる、放送されたゾンビ映画に対する視聴者の視点が作品に欠けてる点についても個人的には気にならなかった。

今視聴者の視点をリアルに描こうとするとSNSで貶したりこき下ろす冷めた視点を描くことは無視できないが、そんな描写入れるだけ野暮だし今は昔ほど視聴者が誠実ではない。

ただ音楽が好きじゃなかった。エンドロールのJACKSON5みたいな曲は完全に確信犯なので100歩譲って良いんだけど、他にもクライマックスのSTROKESっぽい曲とか『誰々っぽい曲作って』が終始見えすぎてイラっとした。
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