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スパイダーマン:スパイダーバースのelectricsheepのレビュー・感想・評価

4.5
最高にクールな映像体験。SONY史上最大のアニメータ140人体制の凄み。制作プロセスが想像できない。

ヒーローは自分自身だというメッセージも明快。主人公の次元のスパイダーマンは死んでしまうのが象徴的。マーベルのお約束でスタン・リーが登場するけど、制作中はまだご存命だったのか、亡くなってからなのか。とにかくスタン・リーが「ヒーローは君自身だ」と語りかけてくるような映画だった。

スピルバーグは常に最新技術を味方につける監督だが、今回の監督や制作陣も最新技術を味方につけることに成功している。スピルバーグの凄さは『ジュラシックパーク』『トランスフォーマー』『レディプレイヤー1』などで常に最新の映像技術を取り込みそのエフェクトを最大限引き出せるスペクタクル大作を作ってきたことだ。最新技術で誰も見たことのない映像を作ることをある種の目的として、成功させてきた。だから物語は王道である種凡庸でいいという割切りがある。そこがスピルバーグの凄いところで、最新技術のデモとしての超大作で稼いだあと、その利益で自分の撮りたい渋い映画を撮ってアカデミー賞を撮ったりしている。稼ぐ映画と賞撮り映画をここまで自覚的に交互に撮れる映画監督は稀有だし、優れたプロデューサー気質が為せる技だと感心する。それはさておき。

今回の制作陣も、新しいCGアニメーションの制作プロセスを開発したことで、誰もみたことのない映像体験を作り上げた。その意味では、とてもスピルバーグ的な映画だった。作品の目的の一部が、新しい映像体験をつくることにあるという意味ですごくフォーカスされた作品だと感じた。

アメリカのアニメは、キャラクター別に担当が別れているという。だからピクサー的なアニメはキャラクター造形や仕草がとても作り込まれていて感情移入しやすい。

日本のアニメは、シーン別に担当が分かれている。だからキャラクターの感情よりも、シーンごとのかっこよさが際立つ。板野サーカスのような戦闘シーンのかっこよさに代表されるように、各シーンのカット割、レイアウト、動きをカッコよく見せるプロのアニメーターがシーンごとに「どこを切り取っても絵になる」作品をつくっていく。

本作は、キャラクター造形もしっかりしているのに、どこを切り取っても最高にクールなビジュアルという点で革新的だ。アメリカ的でもあり、日本的でもある。

キャラクター造形に関しては、ピクサーなどの作品群よりサブキャラクターの物語の深堀りが少なくて、主人公のメンターの役割として描かれている。その点では主人公の少年の成長物語に特化していて、トムホランド版スパイダーマンに近い。だからといってキャラクター造形に手抜きはない。サブキャラのストーリー設定もきちんと存在するけどそれをギリギリまでカットして、主人公にフォーカスできるようにシンプル化しているように見える。

シーン構成やレイアウトに関しては、特に後半の戦闘シーンのカット割、レイアウト、動きに力が入っている。キングピンの加速器内部での戦闘シーンは、とても日本的なアニメーションの動きになっていてすごくクールだ。強いていえば2000年代後半のマイケルアリアス『鉄コン筋クリート』のラストシーンや、小池健『REDLINE』を観たときの構図やレイアウトを見て感じた凄みに近い。しかしその時代からレベルが格段に上がっており、衝撃度も異なる。

最近のハリウッド映画だと『シュガーラッシュ オンライン』『レディ・プレイヤー1』の動きは凄かったけど、いずれも主観視点か俯瞰構図が多い印象だった。今作は、レイアウト至上主義というか、視点が自由自在に動き回るビジュアルセンスが凄まじい。なんとなく90年代以前の手書きジャパニメーションの戦闘シーンを彷彿とさせる構図なのだ。どこを切り取ってもカッコいい構図にしたいという意思がすごく伝わってきてとても良かった。クールだった。

追記。調べたら当時のCGワールドに制作プロセスの記事があった。最初から、新しい表現を目指して制作されたことが伺える。
https://cgworld.jp/feature/201910-sig2019-spider.html
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